マイナス余命1日 ※修正版
「教科書を忘れたんだけど」

毎日何故か、嘘をついては勝手に人の机と自分の机をくっつけてくることなんかは日常茶飯事。
真剣に覚えようとしている私の横目で、人の腹を触って邪魔をすることもあった。
果ては。
奴は授業中、堂々と居眠りをしているにも関わらず、だ。
毎日睡眠時間を削って学年トップを死守しようと頑張っている私を抜いて、あっさり学年1位の成績を奪う。

「いい加減にしてよ!」

そんな中での出来事。
ある、最も触れてはいけなかった禁止ワードを、奴が悪気も無く発した日を境に、私の怒声がクラスに容赦なく延々と響く事になる。
最初は、教室の隅のゴミの方がまだ存在感があったんじゃないかというくらい、気配を消していた私が、突然大暴れし出したからだろう。

「何、あの子どうしたの?」
「勉強のしすぎで頭おかしくなったのか?」
「ていうか、あんなダサい子いたっけ?」
 
などと、好き勝手に話題にしてくれていた。
まあ、それも半月を過ぎた頃には

「あーまたか」
「ていうか悠木もよく飽きねえな」
「悠木様、カッコいいのに女の趣味ホント悪いわね」
「よっ、今日も夫婦喧嘩盛り上がってんな」

バカップルへの冷やかしの声に変わっていた。

「夫婦だなんて死んでもならねえぞ」

私が吐き捨てるように言うと

「じゃあ君が死ぬときにプロポーズしてあげるよ」

どこから拾ってきたのか一流宝石店の婚約指輪のパンフレットを教室で広げて私に選ばせようとした時は、ここぞとばかりにびりっびりにパンフを破り捨ててやった。

そんな抵抗むなしく、次の日には今度は本物のサンプルを教室にいくつも持ち込んで

「どれがいい?」

などと言い出してきやがった。
何もかも違う、理解が完全不可能な行動に泡吹いてぶっ倒れたのも、実に不名誉な伝説となってしまった。
実に、迷惑だ。
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