マイナス余命1日 ※修正版
そもそも、悠木清という男が超人類的なのは、とことん異次元の人間性や脳みそだけではなかった。

クレイジーな人間性をマイナスカウントをしたとしても、彼の線対称の顔や、人類最高とも言われる比率を持つ肉体は、古代ギリシャで活躍した彫刻家達が、さぞこぞってモデルにしたがっただろう。

ギフテッドとして特集を組まれていたはずの60分のドキュメンタリー番組も、最初に超記憶力を見せただけで、コマーシャルを除く約45分は、彼のハリウッドスター並の外見と、それによっていかに性別を超えてモテまくるのかを嫌という程見せつけるような構成になる。

確かにつまらないバラエティに出ている、大体同じような顔の芸能人の作られたネタに比べれば、素だけで関心を引く彼は、利益率の良い視聴率ホイホイなのだろう。

そんな男がクラスに現れたら、いくらエリートとはいえ……いや、エリートだからだろうか、良い遺伝子を残したいと庶民以上に考える、鍛え上げられた美女達がこぞって清にアタックをかけ続けるのも、理解はできる話だ。

隣の席にいるのが嫌だったのは、こちらは好意どころか悪意しか感じていないというのに、まつげエクステやら黒のカラコンやらで、より強力になった目力を持つ美少女達に、徹底的に敵視されるようになったからだ。
むしろ、仲良くなりたいのは美少女の方だというのに。

とはいえ、だ。
本当に大事に育てられた温室の植物みたいな連中だったので、新聞が喜んで記事を出すような出来事は起きなかった。ありがたいことに。
きっと……そんな行為がこの世に存在することすら、彼女たちは幸せな事に知らないのだろう。見た目同様、頭の中もお花畑だから。

せいぜい彼女たちができた事は、会う度に

「あら、今日もそのパサパサのおぐし、素敵です事」

と、8000円はするハホニコのトリートメントで毎日手入れした極上の髪をなびかせてみたり

「そんな鉛筆どこで買いましたの?羨ましいわ。どんなものでも触れる丈夫な体質なんて……」

超高級レースで身に着けた手袋に包まれた手で、イタリア製の1つ10万円はするというボールペンを回しながら、私の机に無造作に放置していた、どこかの宣伝用で作られた、企業のロゴ入りのシャープペンシルを、まるで汚物にでも触るかのように指の爪の先で、ちょんと触りながら言う程度の事だ。

(……うん、実に可愛らしい)

言葉遣いがかつて受けたものに比べて、柔らかい。
突っ込みどころが多い台詞に対して、心の中で反論するのも楽しんでいる自分もいる。
ちなみに髪の指摘に対しては、残念ながら自分の髪の毛でバーコード認証システムを作らなくては精神が保てなくなった担任の教師を見ながら同情心を芽生えさせてみたり

「良かったわ、そんな手袋をしなくてもつやつやの皮膚の手を維持できるなんて」

など、一個500円のハンドクリームでも充分保湿ができるくらいの健康的なお肌を見ながら思った。
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