マイナス余命1日 ※修正版
「どうして私が知りたいなんて思うのよ」
「だって君、いつもこのエレベーター見てたでしょ」

……図星を刺された時はどう対応すればごまかせるんでしたっけ?

「ごまかせるとでも思ってるの?図書館に来るたびに、熱い目でこんなエレベーター見るのなんて、君くらいじゃない?」

……制服の裏に貼った汗じみパッドがびしょぬれで機能を果たさなくなるくらい、どばっと液体が湧き出始めた。

「あれ、どうしたの?反論は無し?ま、僕に反論するのは無駄だってこと、学年2位の君ならよく分かるよね」

学年2位でなくてもあれだけやられてたらどんなにご主人様に懐いたデレデレワンコでも警戒心丸出しにすると思う。

「ね、知りたくない?僕がなんでここに君を連れてこられるか」
それよりもここから抜け出せることの方が今とても興味があります。
奴の、バラの香りがする吐息がどんどん耳に近づいてくる。
奴の息が私の耳にかかり、ぞわぞわっと身震いをしてしまった。
「あれ、感じちゃった?」

感じたとは何事か。
まだ私達は14歳だろう。R15のセリフを吐くな。
警察に突き出すぞ。

目をつぶって、どくどくと流れている汗を止める事だけに集中する。近すぎて自分の汗の匂いを嗅がれて、それを新たな地雷にされる事だけは何が何でも避けなくてはいけない。

「黙ってるって事は、やっぱり図星なのかな……」
「何が……」
 口を開かない方が、貞操の危険をリアルに感じる。
「おっと。やっと話してくれたね。このまま黙ってくれてても良かったんだよ。お人形みたいでとても可愛い」
「キューピー人形に欲情する程、情緒にかけている人間よりは100万倍可愛いでしょうね」
「あれ、キューピーの自覚あるんだ」
言っている張本人が何を言うか。
「ついたみたいだね」
 
古いエレベーターらしく大きな音を立てて、ゆっくり止まった。

「おいで」

そう差しのべられた奴の手を思いっきり叩いて、自分の足で立ち上がり、エレベーターを抜ける。

「すごい……」

感嘆の声が反射神経だけで漏れてしまうくらい、目の前に広がっている古書の山に、私は圧倒された。

この閉じられた地下倉庫には、平安時代に書かれた小説の原書まであるという噂も広がっている。

その話を聞いた時から、私は一度でもここにお目に書かれたら死んでも良いとすら思い続けていた。
全身を思いっきり動かして深呼吸をする。

「気に入った?」
嬉しさのあまり、すっかり頭から消し去っていたが、ここに連れてきた奴が、してやったりと言いたげな顔で私を見ていた。

「どうしてここに入れたの?」
「どうしてだと思う?」

いつものように私が使うセリフをオウム返し。こういうところもいちいち癇に障る。
< 22 / 47 >

この作品をシェア

pagetop