マイナス余命1日 ※修正版
そんなに痛かったのだろうか。
立ち上がる気配のない奴の声は、微かに震えている。
でも、罪悪感なんか持ってやるもんか。

「ひどい事してるのはどっちだよ、セクハラプリンスが」
「セクハラセクハラって、君の語彙力の貧困さは哀れにも思うよ」
「じゃあセクシャルハラスメント」
「同じだよ」
 
馬鹿にしたような笑いで言われると、ますます反論したくなる。

「同じじゃない!文字数が違う」
「せめてさ……どうしてこういう事をするのか、少しは考えてくれないかな」
「考える余地もない」
「厳しいなー」
「自業自得」
「だから君が好きなんだけどね」
「すべからくうさんくさくて気持ち悪い生き物だと思っている」

という言葉の略だろうか。
そうか、そういう事なら私もSUKIと言ってやろうか。全身全霊を込めて。
って……落ち着けよ私。

「今……なんて言った?」
「好きだから好きだって言ったんけど」

さらさらの髪の毛を持つ持ち主には相応しくない、頭をぐしゃぐしゃにかいた奴は大きなため息をついた。

「ここまで通じないなんて……普通の女の子なら、僕が何度も話しかけるだけで一発で落ちたんだけど」

そういうことをやらかしたのか。それもアメリカで。
私が母親なら嘆いてやるぞ。こんな子に育てた覚えはありませんって。
どうやって育てられたのか、全く見当もつかないが。
むしろ私が親に説教してやりたいが。
うちの母親を見習え。
こんなに大変なのに子育てちゃんとして、奨学金までもらえる素晴らしい優秀な子供を育て上げたんだぞと。

「ま、ここまでアプローチしても靡くどころか嫌いだ消えろだ、挙句の果てに死ねだもんな。さすがに傷つくよ」

本当に傷ついているならまず近寄らないだろう、死ねとまで言った当人に。
もしくは言わせた原因の言葉を言わないようにするくらいは誰だってできる。
分かっててあえてそれを続けているなら、こいつは天才ならぬ、天性のDO・E・MUだ。
ここまでの話の流れと奴の行動で、さすがに私も状況を正確に把握し始めていた。

つまり、この人類として最恐レベルのものを持っているこいつは、そのせいでどこか脳細胞……おそらく視力に関わる部分が崩壊された結果、このぽっちゃり平凡パサパサ娘に惚れたとぬかしているというのが……今起きている衝撃的な現実。


「ええええええええ!?」
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