マイナス余命1日 ※修正版
生活の為、私の最後の入院費を稼ぐため、母は沢山私に謝った後、傍から見て分かるくらい真っ赤な目で会社に向かった。

だから、本当は昨日……少なくとも私にとっては大事な一日になるはずだった出来事を連絡なしにドタキャンし、今日完全に姿を消すことで、最後の致命傷を負わせて、取り返しがつかなくなるくらい嫌われる予定だったので、夜中の訪問には、今まで散々驚かされてきたが、私の短い人生の中で最大かつ最高のどっきりだったのだ。

「何故、治療しようとは思わなかったのですか?ステージ4でも手術はできたはず」

奴とは違い、私の想定内の返答をするという事は、例え執事仕事で一般常識から外れた行為をしていたとしても、普通の人間の感覚を持っているとう事だろう。

少しだけ安心した。
彼なら、私の話を理解してくれるだろう。

「この家のどこにそんなお金があるの?」

生活するだけでやっと。
無償の奨学金を得てようやく人間らしい生活を取り戻した母子に突然予定していなかった、何度トリプルSの脳手術の為のお金が払えるだろうか。

答えは否だ。
例えお金があったとしても、診察の時点で

「どうして早く来なかったのですか」

と涙ながらに医師に説教までされた。
早く来るも何も、体よりも心が辛い日が続きすぎていたせいか、体の痛みなど私にとっては何でもない平穏な日常とイコールだったのだ。

母は自分のせいだと、私を見る度に涙を流す。
私は大好きな母をここまで悲しませてしまった運命を呪い、体に鞭打つような罰を自分に与え、母の残りの人生を助けられるような、人生の分かれ道の内の一本を選んだ。
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