マイナス余命1日 ※修正版
「実は今朝から体調が悪くて……」

これは本当。
朝目覚まし時計を止めた後、急に吐き気と頭痛がして、動けなくなってしまったのだ。

「大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないから寝てたんですけどねー」

これも本当。

「そっか……そうだよね、ごめん。てっきり僕とその……付き合うのが嫌になってドタキャンしたんじゃないかと思って」
「ははは……」

と笑ってみせていると、再び眩暈がきた。

(やば……)

「どうしたの?雪穂ちゃん?」
「くすり……」

飲もうとしていた薬を探す。
でも、どこに置いたのか、すっかりと忘れていた。

「薬だね!?」

私が頷くのも見ず、彼はローファーのまま部屋に入って、ダイニングの上に置いてあった、風邪薬とは思えない大きさと量の薬を掴んだ。

「そうだ、水がいるよな」

奴が水を入れようとしていたのは、私が歯磨きに使うコップだった。

(せめて食器棚の中から取って欲しかったな……)

と言いたかったが、襲い掛かる頭痛のせいで上手く言葉が出てこない。

(台所で歯を磨く生活があるのだという事を知らないんだろうな……)

こういう些細なところで、奴と私の違いを改めて思い知らされる。

(ほんと、嫌になるな……)

そんなことを私が思っていると

「うわっ!!」

今度は強く捻りすぎたのか、水が勢いよく飛び出し、奴は上半身がびしょびしょになっていた。

「はは……」

(人を驚かした罰なんだよ……)

声にもならない声を出した気がしたが、その後の意識はもう消えていた。
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