お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜
Side朔夜

海原朝陽。
初めて見た時から、僕と全く違うと思っていた男。
太陽の下で、自由に、伸び伸びと愛されて育ったことがわかる、真っ直ぐな男。
歪に作られ続けた穴を、光で覆い隠そうとした僕と違い、堂々と光の下を歩ける男。

……こいつとは、一生分かり合えない。

本能で存在を拒絶した男が、僕を見下ろしている。

見るな。
そんな憐れんだ目で。
僕はそんなに、お前にとって汚い存在なのか……!?

心の奥底で、拒絶の言葉を発したくて仕方がなかったが、声が声にならず、息が虚しく口から漏れるだけになってしまう。
それが、僕をより一層虚しくさせる。

悠木と海原が、会話をしている音は聞こえた。
でも、意味を全く掴めない」

悠木が、僕に近づいてくるのは分かった。

「目が覚めているだろう?答えてあげたまえ」

悠木が僕の耳元で、ほとんど息の問いかけをしてくる。
生暖かい息が首筋にかかり、ゾクっと寒気がした。

答える?何を……?

「困るね……そろそろ、君にもちゃんと目を覚ましてもらわないとね……」

悠木がそう言った瞬間、僕の体に熱いものが入った。

「あああああ……!!」

また、この液体。
普通の予防接種のワクチンとは違う。
血管に入っただけで、身体中を蝕むような何かが、僕に入り込んでいく。

身体が、この男に囚われていく。
液体が、脳に染み渡り、どんどん思考を奪われていくのだけが分かる。

その時、海原が僕を引っ張りあげ、悠木から引き剥がした

床に投げ出される時、痛みは全く感じなかった。

「おや?君は……彼のことが憎いはずじゃないのか?彼が、どうにかなった方が良いと思ったんじゃないか?」
「俺は誰であろうと、目の前にいる人間が苦しんでいるのを見過ごせるほどの、度胸はないです」

ああ……くそ……。
お前が言う、正しいことを……受け入れたくはないのに……。
今この瞬間だけは、ほんの少し有難いと思ってしまう。
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