お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜
Side実鳥

どうして?
何で、ここまで言ってもわからない?
何で、これを読んでも理解できない?

「よく、言えるよね、海原」

海原が言ったこと。
凪波にちゃんと聞くと言ったこと。
それは。

「凪波が死にたくなった出来事を、凪波にもう1回思い出させたいっていうことだよ。あんたが言ってるのは」

私の言葉に、海原は目を見開いた。
まるで、図星を突かれたかのような、そんな表情。
ほら。
海原も、分かってるんじゃないの?
自分が言ったことの意味を。

「海原はさ、1度も死にたいなんて思ったこと、ないでしょう?」
「……藤岡?」

明日のご飯すら食べるのが大変だった、私と葉を受け入れてくれた海原家。
家族としてじゃないけれど、家族のように扱ってくれた人達は、優しくて温かくて、側にいるだけで心がぽかぽかと癒される。
泥を啜りながらどん底を生きていた私にとって、海原家の存在は、新しく生きていく意味にもなった。
生きていける自信にもなった。
だけど、同時に抱えていた大きなジレンマ。
地獄を知っている人間とそうじゃない人間との間に築かれる、絶対的な透明な壁がある。
特に、私や凪波と違って、両親からの愛情を惜しみなく注がれた海原とは。

そういう人は、真っ白だ。
黒いものを白くするほどの、強い光を持っている。
だから、私は惹かれた。
このまま側にいれば、私も白くなれると思った。
葉も、私が抱える黒に染まらないまま、海原のように真っ直ぐ真っ白に育ってくれると思った。

私とは、恋愛関係じゃなくてもいい。
仲間としてでいい。
それで充分だった。
それだけが、ちょうど良いだろうと思った。
共に生きるには、眩しすぎて潰されてしまいそうになるから。


その予感は、やっぱり正しかった。
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