お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜
Side朔夜
小学校の時、誰もが一度は50mを走らされたろう。
タイムを測って、順位付けされたことだろう。
速いタイムが出たら喜ぶ。
速いタイムを出すために練習をする。
それが、正しい子供の姿だったのだろう。
そして僕は、そう言う意味で言えば、決して正しい子供では、なかった。
でも僕は、一心不乱に走るという行為を、ひどく冷めた目で見ていた。
ただ、今この時になって思う。
ああ……もっとちゃんと、速く走る練習をしていたら、すぐにでも君を捕まえることができるのに。
でも今は、そんな過去を悔やんでいる場合ではない。
彼女が人混みに紛れる。
僕は、その人混みをかき分ける。
決して彼女の背を、見失ってはならないと、必死に追いかける。
これは、根比べ。
どちらの意思が……想い、上回っているのか。
僕から逃げたい、彼女の意思か。
それとも、彼女を捉えたい僕の意思か。
そうであるならば、僕は、君に負けるわけにはいかない。
どれくらいの時間走ったのかは、わからない。
そんなことを気にする余裕すらなかった。
芝生が敷き詰められた広い公園まで来た時、ようやく僕は、よろよろになった彼女の手首を掴むことができた。
それと同時に、彼女が足のバランスを崩し、一緒に芝生に倒れ込んでしまった。
息が苦しい。
速い息を、どうにか深呼吸を繰り返すことで整えた。
そして……。
「どうして逃げた?」
僕は彼女の手首を掴んだまま、彼女に体を向けて話しかけた。
彼女は、顔だけ僕と反対側の方に向けているので、今どんな表情なのかがわからない。
「僕、君を傷つけた?」
彼女は、何も答えず、ただ荒い呼吸を繰り返す。
「もしそうなら、謝るから」
何度だって、君に許してもらえるまで。
「だから……」
僕は、彼女の手をより強く握った。そして……
「僕から、逃げないでくれ」
情けない程の懇願をした。
「どうして……私を追いかけるんですか?」
ぽつりと、彼女が僕の方を見ずに、小さな声で答えてくれた。
僕は、彼女の手と繋がっている手の反対の手を、彼女に伸ばす。
彼女の方に体が近づく。
彼女の髪に触れる。
「……こっち見て」
「……やです」
「君の……顔が見たい」
「……何でですか……」
「どうしても」
そう言いながら、僕は繋いでいた彼女の手を引っ張る。
その反動で、くるりと彼女の顔がこちらを向く。
僕の顔と彼女の顔は、目と鼻の先。
少し息をすれば、吐息がかかるほど、近い。
彼女の目からは、涙がぽろぽろと溢れている。
「僕は……君にこうして触れたい」
そう言って、僕は彼女の頬を撫でる。
彼女の顔がどんどん赤く染まっていく。
「僕は……ずっと、君と話をしていたい」
彼女は、恥ずかしそうに俯き
「……わかり……ました……」
と呟く。
「ねえ……」
「……はい……」
「もう、逃げないでくれる……?」
「……逃してくれるんですか」
「いや……」
僕は、彼女の手から自分の手を一度離し、その手で彼女の頭を引き寄せる。
「絶対に、逃がさない」
そうして、唇が重なるか重ならないかのところで、僕はついさっき気づいた気持ちを言葉にする。
「君が……好きなんだ……」
そう言った瞬間、お互いの唇がそっと触れた。
小学校の時、誰もが一度は50mを走らされたろう。
タイムを測って、順位付けされたことだろう。
速いタイムが出たら喜ぶ。
速いタイムを出すために練習をする。
それが、正しい子供の姿だったのだろう。
そして僕は、そう言う意味で言えば、決して正しい子供では、なかった。
でも僕は、一心不乱に走るという行為を、ひどく冷めた目で見ていた。
ただ、今この時になって思う。
ああ……もっとちゃんと、速く走る練習をしていたら、すぐにでも君を捕まえることができるのに。
でも今は、そんな過去を悔やんでいる場合ではない。
彼女が人混みに紛れる。
僕は、その人混みをかき分ける。
決して彼女の背を、見失ってはならないと、必死に追いかける。
これは、根比べ。
どちらの意思が……想い、上回っているのか。
僕から逃げたい、彼女の意思か。
それとも、彼女を捉えたい僕の意思か。
そうであるならば、僕は、君に負けるわけにはいかない。
どれくらいの時間走ったのかは、わからない。
そんなことを気にする余裕すらなかった。
芝生が敷き詰められた広い公園まで来た時、ようやく僕は、よろよろになった彼女の手首を掴むことができた。
それと同時に、彼女が足のバランスを崩し、一緒に芝生に倒れ込んでしまった。
息が苦しい。
速い息を、どうにか深呼吸を繰り返すことで整えた。
そして……。
「どうして逃げた?」
僕は彼女の手首を掴んだまま、彼女に体を向けて話しかけた。
彼女は、顔だけ僕と反対側の方に向けているので、今どんな表情なのかがわからない。
「僕、君を傷つけた?」
彼女は、何も答えず、ただ荒い呼吸を繰り返す。
「もしそうなら、謝るから」
何度だって、君に許してもらえるまで。
「だから……」
僕は、彼女の手をより強く握った。そして……
「僕から、逃げないでくれ」
情けない程の懇願をした。
「どうして……私を追いかけるんですか?」
ぽつりと、彼女が僕の方を見ずに、小さな声で答えてくれた。
僕は、彼女の手と繋がっている手の反対の手を、彼女に伸ばす。
彼女の方に体が近づく。
彼女の髪に触れる。
「……こっち見て」
「……やです」
「君の……顔が見たい」
「……何でですか……」
「どうしても」
そう言いながら、僕は繋いでいた彼女の手を引っ張る。
その反動で、くるりと彼女の顔がこちらを向く。
僕の顔と彼女の顔は、目と鼻の先。
少し息をすれば、吐息がかかるほど、近い。
彼女の目からは、涙がぽろぽろと溢れている。
「僕は……君にこうして触れたい」
そう言って、僕は彼女の頬を撫でる。
彼女の顔がどんどん赤く染まっていく。
「僕は……ずっと、君と話をしていたい」
彼女は、恥ずかしそうに俯き
「……わかり……ました……」
と呟く。
「ねえ……」
「……はい……」
「もう、逃げないでくれる……?」
「……逃してくれるんですか」
「いや……」
僕は、彼女の手から自分の手を一度離し、その手で彼女の頭を引き寄せる。
「絶対に、逃がさない」
そうして、唇が重なるか重ならないかのところで、僕はついさっき気づいた気持ちを言葉にする。
「君が……好きなんだ……」
そう言った瞬間、お互いの唇がそっと触れた。