お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜
Side朝陽
「早まるんじゃないよ!」
スマホが目に入ると、藤岡の電話越しの声を思い出した。
あいつは妙な鋭さがある。
だからやっぱり、俺の行動の理由にも勘づいたのだろう。
「あいつを敵に回すと怖いよなぁ……」
街で久しぶりに会った時は、とても顔色が悪かった。
その時は、声をかけるべきか悩んだ。
辛い時には逆に声をかけられたくない……放っておいて欲しい……と考える人間を知っていたから。
だから、藤岡から声をかけてもらえた時に、何だかほっとした。
離婚をするという話も、シングルマザーになるという話も、俺にとってはテレビの中だけの話だった。
藤岡の口から、今日の夕飯の話をするようなテンションで語られる出来事の数々に
「本当にそんなことがあるんだな」
という感想だけが、無意識に出てしまった。
「他人事だと、思ってた?」
と藤岡から返された時の声と表情に、俺は罪悪感を少しだけ覚えた。
罪滅ぼしのつもりだったのかは、自分でもわからない。
ただ、困っているなら助けたいと思ったのは事実。
でもそれは、凪波の友人だから助けた……という下心も、あったのだろう。
……今思えば。
そんな軽い気持ちだった。
そうすることで、自尊心が少し満ちた。
だけど藤岡は、そんな俺を嘲笑うかのように、次々と自分が出来なかった仕事をこなしていった。
マーケティングや広報のスキルも身につけていき、あっというまにWordpressでかっこいいサイトまで構築したのには、脱帽しかなかった。
俺は、そんな藤岡を見ながら自分を恥じる機会が多かった。
自分を顧みなければいけない機会が増えていった。
そうしていく内に、いつの間にか「社長」として世間から持ち上げられるようになった。
メディアが次々と取り上げてくれるようになり、売り上げは急上昇していく。
あっという間に「藤岡がいなければ、海原りんご園はここまで成長しなかった」と、父母はもちろん、古くからいるスタッフからも思われるようになった。
葉のためのスペースを用意したのも、スタッフからのアイディア。
「実鳥ちゃんいなくなったら、朝陽ちゃんも嫌でしょう?」
と言われた時は、単純にスタッフとしての意味だと思ったので頷いた。
その時、
「バカ言わないでよ」
と真っ赤な顔をした藤岡に、真っ赤になるほど強く背中を叩かれたり
「若いっていいわね」
とスタッフの人たちから妙に、冷やかされた。
その時は特に気にしてもいなかったが、凪波との婚約の話をスタッフの人に話した時に
「あらぁ……実鳥ちゃんじゃないのね」
と残念そうに言われたのは、予想外で、衝撃だった。
その直後、藤岡と2人で広報戦略のミーティングが控えていたが、逃げ出したい気持ちになった。
藤岡は、そんな俺の気持ちを察したのか、ゲラゲラ笑いながら
「初恋こじらせ小僧なんて、こっちからお断りですよ」
と言い放ってくれた。
藤岡の気持ちよさに、俺はいつも救われていた。
だからなのかもしれない。
コンコン。
車の窓を、藤岡が叩いた。
背負われた葉も、お気に入りの車のおもちゃを持ちながら俺に向かって手を振っている。
俺は、スマホをズボンのポケットにしまい、扉を開ける。
「本当に葉まで連れてきたのか」
「会社のお金で東京旅行なんて、いいチャンスだしね」
たぶんそれは、藤岡にとっては本当の理由ではないのだろう。
「俺、チャイルドシートなんて持ってねえよ」
「私を、誰だと思ってる?」
そう言うと、藤岡は足元に置いた大荷物を見せる。
紙袋に入った、新品のチャイルドシートも入ってる。
前もって言ってくれ……と思ったが、ふとスマホを確認すると
「チャイルドシート買ってもいい?」
の連絡がすでに入っていた。
……気付かなかったのは自分の落ち度だな。
「経費でやってやるよ」
「あざっす社長!」
「自分で設置しろよ」
「じゃあこの荷物トランクに入れて〜」
「おい!」
藤岡は手際よくチャイルドシートを設置して、あっという間に葉を座らせた。
その様子を見ている内に、自分の中に積もったマイナスの気持ちが、薄らいでいく。
「ほら、早くトランク開けて」
「……わーったよ!」
どうして藤岡は、こんなにもタイミングがいいのだろう。
今自分がどんな表情をしているのか……見るのが怖い。
「早まるんじゃないよ!」
スマホが目に入ると、藤岡の電話越しの声を思い出した。
あいつは妙な鋭さがある。
だからやっぱり、俺の行動の理由にも勘づいたのだろう。
「あいつを敵に回すと怖いよなぁ……」
街で久しぶりに会った時は、とても顔色が悪かった。
その時は、声をかけるべきか悩んだ。
辛い時には逆に声をかけられたくない……放っておいて欲しい……と考える人間を知っていたから。
だから、藤岡から声をかけてもらえた時に、何だかほっとした。
離婚をするという話も、シングルマザーになるという話も、俺にとってはテレビの中だけの話だった。
藤岡の口から、今日の夕飯の話をするようなテンションで語られる出来事の数々に
「本当にそんなことがあるんだな」
という感想だけが、無意識に出てしまった。
「他人事だと、思ってた?」
と藤岡から返された時の声と表情に、俺は罪悪感を少しだけ覚えた。
罪滅ぼしのつもりだったのかは、自分でもわからない。
ただ、困っているなら助けたいと思ったのは事実。
でもそれは、凪波の友人だから助けた……という下心も、あったのだろう。
……今思えば。
そんな軽い気持ちだった。
そうすることで、自尊心が少し満ちた。
だけど藤岡は、そんな俺を嘲笑うかのように、次々と自分が出来なかった仕事をこなしていった。
マーケティングや広報のスキルも身につけていき、あっというまにWordpressでかっこいいサイトまで構築したのには、脱帽しかなかった。
俺は、そんな藤岡を見ながら自分を恥じる機会が多かった。
自分を顧みなければいけない機会が増えていった。
そうしていく内に、いつの間にか「社長」として世間から持ち上げられるようになった。
メディアが次々と取り上げてくれるようになり、売り上げは急上昇していく。
あっという間に「藤岡がいなければ、海原りんご園はここまで成長しなかった」と、父母はもちろん、古くからいるスタッフからも思われるようになった。
葉のためのスペースを用意したのも、スタッフからのアイディア。
「実鳥ちゃんいなくなったら、朝陽ちゃんも嫌でしょう?」
と言われた時は、単純にスタッフとしての意味だと思ったので頷いた。
その時、
「バカ言わないでよ」
と真っ赤な顔をした藤岡に、真っ赤になるほど強く背中を叩かれたり
「若いっていいわね」
とスタッフの人たちから妙に、冷やかされた。
その時は特に気にしてもいなかったが、凪波との婚約の話をスタッフの人に話した時に
「あらぁ……実鳥ちゃんじゃないのね」
と残念そうに言われたのは、予想外で、衝撃だった。
その直後、藤岡と2人で広報戦略のミーティングが控えていたが、逃げ出したい気持ちになった。
藤岡は、そんな俺の気持ちを察したのか、ゲラゲラ笑いながら
「初恋こじらせ小僧なんて、こっちからお断りですよ」
と言い放ってくれた。
藤岡の気持ちよさに、俺はいつも救われていた。
だからなのかもしれない。
コンコン。
車の窓を、藤岡が叩いた。
背負われた葉も、お気に入りの車のおもちゃを持ちながら俺に向かって手を振っている。
俺は、スマホをズボンのポケットにしまい、扉を開ける。
「本当に葉まで連れてきたのか」
「会社のお金で東京旅行なんて、いいチャンスだしね」
たぶんそれは、藤岡にとっては本当の理由ではないのだろう。
「俺、チャイルドシートなんて持ってねえよ」
「私を、誰だと思ってる?」
そう言うと、藤岡は足元に置いた大荷物を見せる。
紙袋に入った、新品のチャイルドシートも入ってる。
前もって言ってくれ……と思ったが、ふとスマホを確認すると
「チャイルドシート買ってもいい?」
の連絡がすでに入っていた。
……気付かなかったのは自分の落ち度だな。
「経費でやってやるよ」
「あざっす社長!」
「自分で設置しろよ」
「じゃあこの荷物トランクに入れて〜」
「おい!」
藤岡は手際よくチャイルドシートを設置して、あっという間に葉を座らせた。
その様子を見ている内に、自分の中に積もったマイナスの気持ちが、薄らいでいく。
「ほら、早くトランク開けて」
「……わーったよ!」
どうして藤岡は、こんなにもタイミングがいいのだろう。
今自分がどんな表情をしているのか……見るのが怖い。