恋愛中毒
「風邪ひくっつったじゃん」
直哉は依枝奈の前に立ち、また大きくため息をつく。
依枝奈のパンを握りしめる逆の手をゆっくりと掴んだ。濡れた手は少し冷たくて震えていた。華奢な体の細くて白い手首はか弱さを強調させる。
直哉は一瞬、切なそうに眉を歪めた。それを見逃さ無かった依枝奈は何故か自分の胸が痛んだ。
直哉が腕をぐいっと引っ張ると依枝奈は前へつんのめる。体勢を立て直した依枝奈はぽかんと目の前の人物を見る。何が起こっているのか全く理解出来ない。
「せんせー」
保健室に入ると先生は中にいなかった。直哉はちっと小さく舌うちすると依枝奈から手を離し、カラーボックスを物色し始める。
暖かい手が離れて、依枝奈は寂しい様な安心した様な不思議な気持ちになった。両手でパンを強く握るとクシャ、と耳障りな音がした。
「あ、食っていいから。それ」
直哉は振り向かずに言うとカラーボックスから体操着を取り出す。サイズを見てチラリと依枝奈を見た。Mでいいだろう、と判断すると一式揃えてカラーボックスを閉める。中は外から見て分かる程、ぐちゃぐちゃになっていた。