スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
アップルパイにしてくれる!
本日二回目のクレーム電話は部下である箱井のブースに入電した。
クレーム電話は毎日同じ時刻にやってくるので全員が『そろそろ来るな』と理解して身構えていた。だが実際に誰のブースに入電するのかはランダムかつ事前には判らない。
目の前の電話が鳴った箱井は、一瞬外れくじを引き当てたような顔をする。しかし受話接続した瞬間、彼女の眉根にはぐっと皺が寄った。
「室長」
短い言葉で呼ばれた陽芽子は、会話内容をモニタリングするためにヘッドセットを接続する。そのまま流れるような動作で自席を立って箱井の背後に回ると、ディスプレイには彼女が入力したある言葉が表示されていた。
『ウィス、千葉』
短い伝達事項を確認した陽芽子も、驚いて彼女の顔を見下ろす。
「お電話ありがとうございます。クラルス・ルーナ社お客様相談室の箱井でございます」
箱井は平然とした声音でマニュアル通りの挨拶を述べたが、内心では少しだけ動揺していることが窺えた。
ウィスというのはウィスパー・アナウンスと呼ばれる機能の略称で、オペレーターが電話を受けた際に相手の情報を事前通知してくれる機能のことだ。
ただしこれは非通知電話には適応されない。ここ数日頭を悩ませていたクレーム電話の相手もずっと非通知だったので、相手の情報は何も通知されていなかった。
そのウィスパー・アナウンス機能が反応した。つまりいつものクレーム電話が、何故か今に限って非通知発信ではないという事だ。
視線を電話機の液晶画面に移動する。なるほど、そこには確かに電話番号が表示されており、市外局番はガイダンスの通りに千葉県のものだった。
「蕪木、サーチいける?」
「どうぞ」