スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
隣のブースにいる蕪木に声を掛ける。様子を見守っていた蕪木の反応は素早く、彼のモニター上には過去のデータを検索できる管理画面が準備されていた。優秀な部下に内心で感謝しながら、電話機に表示されている番号を読み上げる。
その間も箱井は相手の圧に屈することなく、穏やかな相槌を打ちながら電話口の話に耳を傾け続けている。彼女は派遣社員だが、ここに勤めて既に三年が経過しているベテランなので、多少なら放置しても大丈夫だろう。もちろん音声のモニタリングは継続するけれど。
「ない、ですね」
データベースに検索をかけた蕪木が、ため息交じりに唸る。
過去にクレーム対応をしたことがある場合は、電話番号の他に名前や住所を確認して記録している場合も多い。だが蓄積されている過去のデータの中には、入電の記録がないようだ。
むろん電話番号が変わっている場合や別の番号からかけてくる場合も想定できるが、少なくともこの番号からの問い合わせ記録は存在していない。
となると現在のクレーム電話の相手は、最近になってクラルス・ルーナ社のお客様相談室へ電話をしてくるようになったと考える方が自然だ。
「ポイントシステムに登録ないかな……?」
応対記録からわかることは、過去にお客様相談室へ電話をかけてきた事があるかどうかのみ。しかしこの他に、クラルス・ルーナ社には通信販売や新商品の情報を配信する会員限定の公式サイトが存在する。
もしかしたらそこに会員登録があるのではないか。登録があったら、電話相手の情報がわかるのではないか。
陽芽子はくるりと振り返ると、すぐ後ろにいたシステムサポート係長の野坂に声を掛けた。
「野坂さん。ちょっと調べて欲しいことがあるんですけど、今いいですか?」
「うん、オッケーオッケー」