スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 軽快に頷いた同僚に先ほどの電話番号を申し伝える。コールセンター内で一番タイピングが速い野坂の指が俊敏に動くと、ディスプレイ上には会員の登録項目がずらりと並んだ。

「登録あるよ」
「本当ですか!?」
「うん。千葉県の人だな。名前は鳴海 優太(なるみ ゆうた)ってなってるけど」
「……えっ」

 最近何かと遭遇する名字を耳にした瞬間、陽芽子の喉からはつい変な声が出てしまった。





   *****





「なるほど、鳴海秘書のお兄様ですか」

 蕪木の妙に納得したような声を聞いて、陽芽子だけではなく陽芽子の部下たちも途方に暮れて悲壮な表情になった。

「口外はするなよ?」
「……はぁ」

 春岡の念押しに一同揃って気が抜けたような返答をする。

 課長の春岡に状況を報告すると、彼はすぐに人事部長代理のポストに就いている同期社員に情報提供を願い出てくれた。ものの数時間で副社長第二秘書である鳴海優香の個人情報を秘密裏に確認した春岡は、その内容を陽芽子と部下たちにもこっそりと教えてくれた。

 社員の個人情報管理システムに記載があった鳴海優香の緊急連絡先――彼女の実家の電話番号が、先ほど通知された電話番号と一致した。さらに実家の住所と登録の住所も一致した。

 彼女の生年月日と会員登録があった顧客の生年月日から、鳴海秘書と電話口の相手が兄妹であることが推察できた。それに字を見れば、名前の漢字が一文字重複している。

「課長、よろしいのですか? 社員の個人情報ですよね?」
「しょうがないだろ。放っておいたら社内システムにハッキングしようとする危ない奴がいるからな」

 春岡の視線を受けた御形(ごぎょう)が、悪戯っぽい笑みを浮かべて肩を竦めた。

 陽芽子どころか啓五よりも若い派遣社員の御形は、スマートフォンのアプリソフトを製作する仕事が本業らしい。生活費として安定的な収入を得るためにお客様相談室でオペレーター業務をしているが、エンジニアリングの技術や機械に対する知識は野坂と同程度を有している。
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