スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「俺はそんなことしませんよ。コールセンターのPC、スペック低すぎるので」
「いや……お前、やっぱり危険だよ」
スペックあったらやる気なのか、と思わずにはいられない。
陽芽子は御形だけではなく、部下全員に『個人情報の取り扱いは厳重に注意するように』と日頃から口を酸っぱくして指導している。その部下たちが社員の個人情報を流出するとは思えないが、ここ数日……無言電話が始まった時期から数えれば約三月も苦しめられていた彼らの心情は、察するに余りある。
もちろん上司としては同じ注意を繰り返すしかないが、皆の心労を思えばあまり強くも咎められない気分だ。
「でもどうして鳴海秘書のお兄さんが?」
夏田が困惑して首を傾げると、隣にいた鈴本がにへらっと笑った。そしてあっさり余計な事を言う。
「嫉妬してるんですよぉ。室長、副社長のお気に入りですからね~」
「けどなぁ……上司の彼女が相手じゃ、どう考えても分が悪…………あ」
鈴本の意見に便乗した春岡が、それよりもっと余計な事を言った。
「は?」
「え?」
「へ?」
自分でも口が滑ったと気付いたのか、その言葉は最後までは紡がれなかった。しかし聞いていた蕪木と夏田と御形はその意味に気が付いてしまったらしく、一斉に陽芽子の顔を振り返ってきた。
「いや、ちょ……!」
「し、室長、副社長と付き合ってんすかッ!?」
「うそー!? いつからです!?」
「それで室長、結婚しないんですか……?」
「ち、ちがう! ちがうってば!!」
案の定三人から質問攻めに遭ったので、必死になって否定の言葉を叫ぶ。誰にも言わないと言ったのに、あっさり誤情報を植え付けてきた上司を思いきり怒ってやりたい気持ちになった。でもどちらかと言えば、元凶はそのやりとりを見てニマニマと笑う鈴本だろう。