スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
ふたりの魔女
部下たちを先に帰し、春岡と入念な話し合いを重ねて、おおよその方針は決定した。あとは陽芽子が『上手く』やれるかどうかだ。
帰宅のためにエレベーターを待っていると、開いた扉の中にいま最も会いたくない人が乗っていた。なんとも……タイミングが悪い。
「お疲れさまです……」
「お疲れ様です」
つん、と澄ました顔で挨拶を返してきた啓五の第二秘書の鳴海に、陽芽子は心の中で盛大なため息を吐いた。相変わらず一切ブレない高飛車な態度には感服するが、返答があるだけ以前よりマシだろう。
エレベーターに乗り込んで『閉』ボタンを押すと、時間が過ぎるのをひたすら待つ。小さな箱の中の空気はかなり気まずかったが、陽芽子が考えていることを気取られるわけにはいかないので、何も言わずにやり過ごす。つもりだった。
「こんなに遅い時間まで、お忙しそうですね」
「へっ……?」
相手も何も言って来ないだろうと油断していたので、声を掛けられてつい間抜けな声が出た。思わず鳴海の方へ振り向くが、彼女はこちらを見ておらずコンパクトミラーを確認しながら前髪を撫でていた。
そして他人事のように呟く。
片手間で雑談をするような態度で。
「お客様相談室、大変そうですよねぇ」
し、白々しい……!
誰のせいで残業してると思ってるの、と睨みつけそうになり、慌てて踏み止まる。陽芽子の様子に気付かずミラーをパタンと閉じた鳴海はご機嫌そのものだった。
「ご多忙はお察ししますが、白木係長はもう少しご自身のお手入れをなさった方が良いのでは?」
「は……はぁ!?」
「お肌が荒れています。髪にはツヤがないですし、ネイルのケアは不十分。表情も暗いです」