スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
密かに身震いする陽芽子を残し、一階に到着したエレベーターから鳴海が先に降りていく。少し進んだところで振り返った彼女は、陽芽子の姿を見てフンと鼻を鳴らした。
「白木係長にはぜひ『身の丈に合った』相手をお選びになることをおすすめしますよ」
「な、なっ……!?」
「それでは、お先に失礼します」
なんでそんな失礼なこと言えるの!?
と口から飛び出しそうになった言葉はぐっと飲み込んだ。
あまりの言い分に陽芽子が唖然としている間に、鳴海はコツコツとヒールを鳴らして社外へ出て行ってしまった。姿勢も美しく、ボディラインも魅惑的で、男の人なら誰でも好きになってしまいそうな甘い香りを振りまいて。
だが部署は違うとは言え、陽芽子は仮にも係長。役職に就いている立場なのだ。
もちろん自分の方が偉い、年上を敬えと言うつもりはない。けれど陽芽子に対する態度は、あまりにもひどいと思う。あれで有能だともてはやされているのだから、この会社の人事課と秘書課の人選は大丈夫なのだろうか、と思ってしまう。
いや、鳴海は秘書としては本当に有能なのだろう。そうじゃなければ、就任したばかりでまだ右も左もわからない新副社長の秘書など務まるはずがない。
彼女はただ陽芽子を毛嫌いしているだけだ。陽芽子と啓五の関係を疑っているから。
もしかしたら、勘違いなのかもしれないと思っていた。証拠はきちんと揃っているが、心のどこかでは身内に頼んでまで嫌がらせをしてくるとは信じられなかった。副社長の秘書が自社の部署へ攻撃を仕向けるなんて、あり得ないと思っていた。
それに陽芽子の仕事の邪魔をすることと啓五とのプライベートには結びつきがなく、嫌がらせをしたところで鳴海に利点はないと思っていた。
でもこれが現実だ。鳴海はIMPERIALに足を運ぶ余裕すらないほど陽芽子を疲弊させて、啓五と会う機会を奪おうとしているのだろう。