スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
陽芽子を嘲笑うあの目から、彼女が何から何まで計算していることに気付いてしまった。きっと鳴海は、狙って11時と17時に電話を掛けてきている。昼休みや終業時刻に近いそのタイミングが、陽芽子や部下達にとって最も精神的ダメージが大きい時間帯だと知っていて、わざとに。
(………悔しい)
そういう勘が働くという意味では、鳴海は優秀なのだろう。彼女はビジネスパートナーとして、啓五の傍に立つことを啓五本人にも会社にも許されている。若さも、華やかな見た目も、能力も完璧に揃っていて、啓五の隣に立つことに絶対的な自信がある。
その鳴海が言うのだから、きっと間違っていない。陽芽子は啓五の隣には相応しくない。陽芽子のように年上で、疲れ果てていて、自分の見た目なんて最低限しか気にしていない女は、一ノ宮の御曹司である啓五に相応しくない。そんな事はわかっているけれど。
「でも、それとこれとは話が別だもん!」
陽芽子たちは会社とお客様をつなぐという役割を全うするため、懸命に業務に励んでいる。理不尽な要求に対処すべく、神経を擦り減らして日々戦っている。だから競合他社ならばともかく、同じ会社の人間に足を引っ張られている場合ではないのだ。
仕事にプライベートの事情を持ち込むべきではない。玉の輿を狙っているのは鳴海の自由だが、それは陽芽子の部下を巻き込む理由にはならない。
仕事とプライベートを分けるべきであることは、わかっている。でも今回だけはその禁じ手を使わせてもらう。
『……陽芽子?』
「お疲れ様です、副社長」
五コール以内に出なければ改めてかけ直そうと思っていたが、啓五はすぐに陽芽子のかけた電話に出てくれた。
不思議そうな声を出したのも無理はない。陽芽子が啓五に電話を掛けるのは、これが初めてだ。
「お忙しいところ申し訳ございません。ご自宅にいらっしゃいますか?」
『いや、まだ会社にいるけど』
「お仕事中でしたか」
『ん、いいよ。秘書たちは帰したし、もう俺しかいないから』