スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 コールセンターのオペレーターから副社長に直接電話を繋ぐなど、どのマニュアルにも存在しないし、組織図から見てもあり得ない提案だ。そんな非常識なエスカレーションなどたぶん誰も聞いたことがない。

 でもその非常識な提案には、理由もあるし意味もある。

「ただ、いきなり副社長が出ると相手も驚かれると思うので、秘書の鳴海さんに出て頂く方がよろしいのではないかと」

 笑顔を貼り付けて告げた一言に、鳴海の顔色がわかりやすく曇った。

 彼女もまさか、慕っている上司に内緒で連れられてきた場所が自社のコールセンターで、しかもその理由が身内の暴言の処理をさせられる為だとは予想もしていなかったはずだ。

「それは許可できない」

 一方の啓五は、まだ状況を理解していない。眉根を寄せて不快感を示す顔を、陽芽子もじっと見つめ返す。

「これはコールセンター業務に携わる者の仕事だろ。いくら俺の秘書とは言え、易々と他職域を侵すことには賛同しかねる」
「……」

 ―――正しい意見だ。

 そう。副社長という重要な立場にある人が、他人の提案や意見に簡単に頷くようでは困る。

 もちろん場合によっては周りの意見に耳を傾けることも重要だし、以前陽芽子も『部下の話を聞いてあげなきゃ』と啓五に詰め寄ったことがある。

 しかしそれは必要に応じて参考意見を取り入れるという意味であって、周囲の要求のすべて聞き入れろという話ではない。

 啓五の言う通り、他職種に就く人間が他の業務に足を踏み込むことは、不要な軋轢を生む原因になる。状況次第では『仕事を横取りされた』『業務を押し付けられた』といった負の感情を生み出すこともあるので、判断は慎重にならなければいけない。
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