スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「あの、仕事とプライベートを混同しすぎでは……」
「それが?」
陽芽子も一応は抵抗を試みるが、啓五には逆に訊ね返されてしまった。
おまけに仕事中だと言うのに、その目はまた本気の色をしている。
「せっかく陽芽子を誘うチャンスが転がってきたんだ。黙って見過ごすほどの余裕なんて、俺にはないからな」
更に陽芽子を誘うとあっさり言い放つものだから、流石に慌ててしまう。よもや聞かれてしまったのではないかと思って背後を振り返ると、コールセンター内にいる応対中の者以外の全員が、こちらの様子をじっと窺っていた。
たぶん会話内容は聞こえていなかったと思う。だが陽芽子の喉からは『ひえっ』と変な声が出た。
「この状況とこの立場を利用できるなら、使わない手はないだろ」
焦る陽芽子をよそに、啓五が小さく鼻を鳴らす。
「それにプライベートを仕事に持ち込んだのは、陽芽子の方が先だと思うけど?」
「…………。…………。……わかりました」
「よし、交渉成立だな」
たっぷり二十秒ほどの時間を要して考えたが、やはり背に腹は代えられない。
この状況を上層部へ報告せず、出来るだけ穏便に処理するには今日この場で決着をつける必要がある。陽芽子の心情を看破し、足元を見た上で個人的なデートを条件に提示するのもどうかと思う。しかし彼が陽芽子と同じぐらいに必死な事は痛いほどに伝わってくる。
と思っていたのに、さっさと話を切り上げて元の場所へ戻っていく啓五の足取りは嘘みたいに軽やかだった。
「鳴海、電話に出て先方の言い分を聞いてやってくれ」
「えっ……し、しかし……」
「出来ないか? 普段、取引先とやり取りしてるのと何も変わらないだろ?」
「………」