スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 スイッチが入るとこちら側は落ち着くまで黙って聞き続けるしかないのだが、耐性のない人間にいきなり『これ』は辛いだろう。さらに普段なら反論できる相手なのに、反論すれば自分と相手の関係性が露呈してしまうため言い返すことすらできない。その板挟みな状況が、彼女の焦燥感をさらに煽った。

 もちろんひた隠しにしたところで、お客様相談室のメンバーはすでに二人の関係を知っているのだが。

 ふう、とため息をひとつ。

 これが陽芽子と春岡の考えた、現状を打破するための計略だった。相手の素性がわからない……ということになっている以上、こちらからは大きなモーションを掛けられない。ならば、鳴海とその兄に自ら攻撃を止めてもらうしかない。第三者の目がある状態で、お互いをぶつけ合うことによって。

 灸を据えるには少しばかり劇薬だったかもしれないが、元はと言えば自業自得だ。彼女には是非、ここにいる全員が毎日この苦痛を味わっていることを身をもって味わって欲しい。

 とはいえこのまま放置し続けるわけにもいかないので、適度なところで切り上げる必要がある。

「課長、私は準備に入りますね。申し訳ありませんが、副社長への説明をお願いしてもいいですか?」
「あぁ、わかった」
「もし定時を過ぎたら、皆は先に帰して下さい」
「白木がそこまで手こずることなんてあるか?」
「あるかもしれませんよ?」

 あるかもしれない。
 今回はちょっと特殊な事情だから。

 不可解な顔をしている啓五に、にこりと微笑む。そして自分の右耳に装着していたヘッドセットを外して啓五に手渡す。これを使えば、啓五にも何が起こっているのか理解できるだろう。

 大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

 お客様相談室の責任者として陽芽子に出来ることは限られている。

 けれどいつだって、自分に出来ることは最大限にするつもりだから―――
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