スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

お客様相談室のお姫様(啓五視点)


「……この聞くに堪えない暴言は、いつもこうなのか?」
「えぇ、まぁ大体こんな感じですね」

 壁を背にしたまま左隣に問いかけると、同じ姿勢で同じ会話をモニタリングしていた春岡が苦笑して頷く。

 コールセンターというのは、啓五が想像していたよりもずっと過酷な業務なのかもしれない。現に啓五の代理として電話に出た鳴海は、ただ話を聞いているだけなのに五分と経たずに相槌の一つも出てこなくなってしまった。

 涙目になって固まってしまった彼女に代わり、現在は責任者である陽芽子が電話口の相手と会話をしている。その音声を右耳で聞きながら、啓五は重いため息を吐いた。


 鳴海は秘書としての経験はあるが、コールセンターでのオペレーター業務経験はない。だから陽芽子のヘッドセットを借りてモニタリングを開始してすぐに、研修も受けていない部下を苛烈な環境に放り込んだことを後悔した。判断を誤ったとさえ思った。

 啓五の目には、陽芽子や春岡が鳴海を苦しめるために、意図的に彼女を電話に出したように見えた。

 陽芽子は本当にこんなことをさせたかったのか、そして春岡は本当にその提案を許可したのだろうか。

 疑問を感じて止めさせようと思ったところで、啓五と鳴海がどうしてここに呼び出されたのか、なぜ鳴海が電話に出るよう誘導されたのか――その理由と現状のすべてを、春岡が丁寧に説明してくれた。無許可で個人情報を検めたことに対する謝罪を添えた上で。

 現在、陽芽子に向かって暴言を吐いている男性は、鳴海の兄である鳴海優太という人物らしい。そして鳴海の兄は、陽芽子に対して嫌がらせをするために、三か月も前から無言電話やクレーム電話などの迷惑行為を繰り返していたのだという。
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