スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
鳴海以上に、自分に対して失望する。意図せず零れた盛大なため息を吐き切り、重い頭を持ち上げる。
その瞬間、また恋に落ちた気がした。
『でさぁ、折角飲もうと思って楽しみにしてたのに、売り切れてたのがショックだったんだよ……』
「左様でございましたか。その節はご不便をおかけいたしまして、大変申し訳ございません」
『いや、いいんだ……仕事を見つけられずにウダウダ酒飲んでる場合じゃないのは、俺もわかってんだよ……』
先ほどまで暴言のオンパレードだったのに、気が付けば人生相談になっている。中盤をちゃんと聞いていなかったので何が起きたのかと驚いたが、陽芽子の様子を確認しても彼女は最初と何も変わっていない。
威圧的な暴言に屈さず、理不尽な要求にも負けず、凛とした姿と穏やかな口調で相手に寄り添うように丁寧な返答を続ける。啓五が好きな、癒しの声で。電話の向こう側の相手に表情など見えていないはずなのに、優しい笑顔のままで。
激しい雨の中で咲く花のようだ。
たおやかで美しく、優しくも強い。
欲しい、と思う。陽芽子の視線を、声を、関心を。心も身体もすべて自分に向けておきたい。他の誰にも触れてほしくない。
陽芽子は一ノ宮の名前ではなく、啓五自身のことを認めてくれる。傍で声を聞いているだけで、疲れが消えて癒される。そんな相手にはこの先の人生で二度と出会えないと思うから、どんな手を使っても、どんなに時間が掛かっても手に入れたいと思ってしまう。