スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
自分の部下だからと謙遜するにしても、もう少し考えるなり思い出すなりあるだろう。なんて拍子抜けするが、春岡は困ったように笑うだけだ。
「白木、最初はびっくりするぐらい仕事が出来なかったんです。顧客に言い返して火に油を注ぐし、相手に怒鳴られたらすぐ泣くし、ミュートせずにくしゃみするし。本当めちゃくちゃな奴で」
過去の陽芽子の失敗を聞き、驚いてしまう。右耳に聞こえている陽芽子の声は、相変わらず穏やかで優しいのに、貫禄さえ感じる。堂々としたやり取りから春岡の言うような悲惨な姿は少しも想像できない。
だから陽芽子は、オペレーターとしても責任者としても最初から完璧なのかと思っていた。けれど春岡は肩を竦めて首を横に傾ける。
「人事もなんでこんな使えないやつ送り込んできたんだ、と思いましたよ。指導するこっちが頭抱えるぐらいでしたから」
春岡の眉間の皺を見るに、陽芽子の指導は本当に大変だったのだと察する。けれどまだ若い頃の、失敗してばかりだった陽芽子の様子を思い出した彼は、昔を懐かしむように再び笑みを零した。
「でもすごい努力家なんです。完璧に覚えるまで何回もマニュアル読んで。個別指導頼んできたり、貸した分厚いビジネス書を一週間で読破したり。後になって、やっぱり人事の目は節穴じゃないな、と思いましたね」
春岡は、彼女がここまで食らいついてきて、ここまで成長したことを誉れ高く感じているようだ。啓五も彼が笑う様子を見て、そっと感心する。
陽芽子は自分が相応の努力をしてここまでやってきたからこそ、啓五の努力や才能も褒めて励ましてくれるのだろう。それに責任を自覚させるように叱ってくれるし、導いてくれる。