スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
やっぱり傍にいて欲しいと思う。陽芽子が傍にいてくれればどこまでも成長していける気がする。どんな困難も乗り越えられる気がする。
「ですから副社長が白木のことを認めてくれているようで、私としては嬉しい限りですよ」
「……そうですか」
春岡の言葉に静かに頷く。その言動から遠回しに祝福されているような気配は感じ取ったが、陽芽子との信頼関係を知っている以上素直に喜ぶことも出来ない。いつも余裕のない啓五と違って、春岡は常に余裕があるようだ。
ふと視線を感じて首を動かすと、最も近い場所に座っていたオペレーターの女性がじっと啓五の顔を見つめていた。
大学生ぐらいの年齢だろうか。アッシュグレーに染めたおかっぱみたいなショートボブヘアと太い黒斑フレームが印象的な女性は、啓五と目が合うとにこりと笑みを浮かべてきた。
「副社長は、課長にやきもち妬くぐらい室長が好きなんですね」
疑問のような肯定のような言葉で、彼女はくすっと不敵に笑った。
「でも室長は私たちの可愛いお姫様なので。ちゃんと大事にしてくれる王子様じゃないと、渡しませんから」
「こら、鈴本!」
急に辛辣な宣言を浴びせられ、しかも仔細を見抜いているらしい口振りに仰天する。だがその言葉には、啓五よりも隣にいた春岡の方が焦ったらしい。
上司に『何を言っているんだ!』と怒られ『だってぇ~』と唇を尖らせているが、鈴本と呼ばれた女性の言葉には啓五も妙に納得した。
「……なるほどな。可愛い小人たちを納得させなきゃ、俺は白雪姫の相手として認められないのか」
陽芽子は上司だけではなく、部下からも大切に想われて愛されているらしい。副社長という確固たる社会的地位を持っている啓五ですら、簡単には認めてもらえないほどに。