スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「これはハードル高いな」
苦笑して肩を竦めると、鈴本が肯定するようににっこりと笑う。春岡は左手で額を覆って頭を抱えていたが、別に失礼だとは思わない。むしろ彼女の言う通りだ。
啓五は陽芽子に強引に迫ってしまった。嫌われてもおかしくないことをした。部下たちに細かな事情を話しているとは思わないが、大事にするどころか傷付けてしまったのは事実だ。簡単に認めてもらえなくても無理はない。
だからと言って諦めるつもりもないけれど。
そんな陽芽子の姿を再び確認すると、丁度話が終わったところのようだった。
「この度は大変なご不便をおかけいたしまして、誠に申し訳ございませんでした。今後またご要望など御座いましたら、私白木までご連絡いただければ幸いです」
リアルタイムの陽芽子の声と、ヘッドセッドを通した陽芽子の声が同時に響く。
たおやかで美しく、優しく、強く。
―――そして、終話。
最後の瞬間まで、暴言を吐き続ける人を相手にしているとは思えないほど、丁寧な言葉遣いだった。相手が電話を切ったことを確認して、陽芽子も電話機の接続を切る。そのままふう、とため息をついた鮮やかな幕引きに、周りにいた部下たちがワッと浮足立った。
でもすぐに叱られて元の席に戻る。とは言え全員が嬉しそうな顔をしてうずうずしているのが手に取るようにわかる。見ているこちらが笑ってしまいそうなほど、従順な部下達だ。
「申し訳ありません、予定より長引いてしまいました」
「就業時間内だ、上出来じゃないか」
「ありがとうございます」
啓五と春岡の前までやってきて簡潔に報告した陽芽子に、春岡が満足げに頷く。上司にさらりと礼を述べた陽芽子の横顔を見つめていると、不意に彼女と目が合った。
「ご苦労様。すごいな、何も言えなくなってた」
「いえ、相手も全部吐き出したので、言うことが無くなっただけですよ」