スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
そして決して驕らない。啓五の労いに対してふわりと微笑んでみせた陽芽子に、一体どこまで自分を惚れさせれば気が済むのかと言いたくなってしまう。
そうやって啓五の心を奪って離さないくせに、こちらから手を伸ばせばするんと猫のように逃げてしまうのだから。
(ずるいな……本当に)
当の陽芽子は啓五の煩悶など知る由もなく、けろりとした様子で自分の功績を翻す。
「それにまた掛かってくる可能性もありますので」
「納得したんじゃないのか?」
「今日のところは納得して頂けました。それに副社長の秘書が自ら対応して下さったので、先方の溜飲も下がるでしょう」
たぶん、そんなものは下がっていないと思う。
何故なら鳴海は、自己保身に走った。相手の話に耳を傾ける姿勢もなく、自分の都合を優先させ、己の所属と名前を名乗らなかった。ちゃんと名乗っていれば相手もそれが自分の妹だと気付き、また違う展開になったかもしれないのに。
現時点で鳴海の兄は、二人目に出た相手が自分の妹であることに気付いてすらいないだろう。だから陽芽子が述べた『副社長の秘書が自ら対応して下さった』と言う言葉は、事実とは異なるただの気遣いだ。もしくは硬直したまま会話を聞いている鳴海に、改めて釘を刺すための。
全ては事を荒立てないようにするため。啓五の副社長としての地位と、鳴海の評価を保つため。そして自分の部下を守るため。
本当に、頭が上がらない。
「わかった。もしまた電話が掛かってきたら教えて欲しい。この件は俺が責任を持って対処する」
啓五も、間接的に鳴海に言い聞かせるように頷く。本当は今すぐに頭を下げたいぐらいだが、せっかく丸く収まるようにお膳立てしてもらったのだ。ここで啓五が謝罪することで、その気遣いを台無しにする訳にも行かない。