スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「……悪かった」
だから一言だけ言い添える。
本当は、悪かった、では済ませられない。啓五にも監督不行き届きの責任がある。知らなかったとはいえ、こんな状況になっていたのに数か月も放置してしまったのだ。自分の部下を管理できずに迷惑を掛けたのならば、それは全て啓五の責任に決まっている。
「とんでもございません。副社長が謝罪されることではないですよ。こちらこそ、お忙しいところをお越しいただき本当にありがとうございました」
「あぁ」
けれど気にしていないとでも言うように、陽芽子は笑顔を見せてくれる。だから視線を交わして頷き合い、彼女の配慮を素直に受け取ることでこの場を収める。
ワークチェアに座って青ざめた顔をしている鳴海に『戻るぞ』と声を掛ける。のろのろと立ち上がって頭を下げた鳴海に退室を促した後、ふと大事なことを思い出す。
そう言えば、今日は火曜日だ。
啓五が振り返ると、見送りのために後ろについてきていた陽芽子が不思議そうな顔をした。首を傾げる彼女に近付き、その耳元にまた内緒の話を語り掛ける。
「ごめん、陽芽子。今夜はIMPERIALには行けない」
「え、全然……構いませんけれど?」
「……」
ところが、陽芽子の返答はあまりにもあっさりしたものだった。きょとん、とした表情の陽芽子に、毎週火曜日の夜を楽しみにしているのは自分だけなのかと落胆してしまう。やっぱり無理してでも行こうか、と思ってしまう。
ひとりで気持ちよく酔ってる陽芽子を、他の男性客が見つけて声を掛けたらと思うと気が気じゃない。それに啓五の顔を見上げて不思議そうに首を傾げる小動物のような仕草を見れば、今すぐにでも抱きしめて撫でたい欲望が沸き起こる。
けれどやっぱり、今日は駄目だ。
実の兄に一方的に怒鳴られて放心状態になっている鳴海に、その口でちゃんと説明してもらわねばならない話がたくさんあるのだから。