スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
4章
恋と愛を結んで
言った。
確かにデートをすると約束はした。
でもこんな状況なんて想定していない。
夜景が美しいホテルの最上階レストランの特等席に座らされて、一品の料理名が三行にもなる料理を次々と並べられ、値段のついていない高級ワインを注がれる状況なんて想像できるはずがない。
服装は気にしなくていいと言われたので『まさか』とは思ったが、ちゃんと落ち着いた印象のワンピースを選んでよかったと思う。啓五の言葉を鵜呑みにしていたら、今ごろ仕事あがりのくたびれたスーツ姿でこの場所に座っていたのだ。改めてその状況を想像すれば、冷や汗しか出てこない。
「口に合わなかった?」
「ううん……すごく美味しいよ」
運ばれてくる料理は見た目も鮮やかで美しく、どれも感嘆するほどに美味しい。口に合わないのではなく、食べるのが勿体なくてただただ恐縮しているだけだ。
そんな陽芽子の困惑を感じ取っているはずなのに、啓五の表情はずっと楽しそうなままだ。まるで陽芽子の反応も味わうような笑顔を向けられ、また少しだけ照れてしまう。
啓五の態度はいつも余裕たっぷりだ。
陽芽子よりも、年下のはずなのに。
「そう言えば飲んでる姿はよく見るけど、食べてるとこ見るの初めてだね」
余裕と言えば、彼の食事の席での振る舞いは驚くほどスマートだ。高級なホテルレストランに入ったところで何をしていいのかわからない陽芽子と違い、オーダーも食事の手順も手慣れている。
「啓五くん、食べるの上手」
「そりゃ一ノ宮の家に生まれてナイフとフォークが扱えないようじゃ、いい笑い者だろ」
「あ、そっか……」
言われてみれば、啓五は食品を扱うクラルス・ルーナ社の副社長で、一ノ宮の御曹司だ。食に関する英才教育を受けて育つ一ノ宮の人間が、テーブルマナーもままならないようではお話にならないのだろう。