スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
対する陽芽子はごく一般的な家庭の育ちだ。カトラリーの使い方はわかるが、使う順番や置く場所などは正直そこまで自信がない。
「私、いい歳してテーブルマナーとかあんまりよくわかんないから、気後れしちゃう」
「そんなの、これから覚えればいいんだよ」
不安を覚える陽芽子とは正反対に、啓五の回答はごくあっさりとしたものだった。『俺がいくらでも教えるから』と笑う顔を見て、啓五の恋人になると、デートはこういうお洒落なお店ばかりに行くのかもしれないと気付く。それはすごいプレッシャーだろうなぁ、と他人事のように苦笑してしまう。
けれど目の前に最後のデザートを用意されると、難しい考え事はあっと言う間に消えていった。
「わぁ、美味しい……!」
「陽芽子、甘いもの好きだもんな」
「うん!」
濃厚なチョコレートケーキとスフレチーズケーキ、ふわふわのホイップクリームに、甘酸っぱいベリーソースとフレッシュなフルーツ。ジュエリーのようにキラキラと輝く甘味をひとつずつ味わっていると、見ていた啓五にまた笑われた。
ディナーには遅い時間のためか客はまばらだが、デザートひとつではしゃぐなどみっともない。気付いた陽芽子はひとり恥じて静かになる。
「これで餌付けは成功したな」
慌てて黙ったのに、陽芽子の様子を見つめる啓五はただ嬉しそうだ。
「さて、じゃあ次行くか」
「え? ど、どこに……?」
食後のコーヒーを飲み終えて立ち上がった啓五が、にやりと笑う。
ワンピースに合わせて慣れないミュールを履いている陽芽子は、あまり遠くまでは歩けない。もし何処かへ行くなら近場がいいなんてワガママを口にする前に、啓五がそっと手を差し出してきた。
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