スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
啓五の温度を再認識すると、また気恥ずかしさを覚えた。その甘やかな感情を誤魔化すように、青色と水色の幻想世界へ視線を向ける。
「大変さから解放されたせいかなー? ここ数日、みんなの気が緩んでて困ってるんだ」
無言電話から数えると約三ヶ月もの間、陽芽子の部下たちは過度なストレス環境下に身を置いていた。
今回の件について啓五が鳴海をどのように処したのかは聞いていないが、きっと鳴海の兄にも状況が伝わったのだろう。ことが露呈した翌日から、悪質な無言電話やクレーム電話はパタリと姿を消した。
その反動からか、陽芽子の部下たちはこの数日間気が抜けたようにぼんやりとしていて、仕事に全く身が入っていない。もちろんそれでミスをするようなことはないが、来週になっても腑抜けた状態が続くのなら喝を入れなおさなければいけないと思っていたところだ。
「陽芽子、仕事辛くならないのか?」
ひとりでぷんすこと怒っていると、啓五がそんなことを訊ねてきた。その不思議そうな表情を確認した陽芽子は『なるほど』と思うと同時に『やっぱり』とも思った。
「あれだけ見ると、そう思うよね」
啓五はきっと『お客様相談室』はクレーム処理に追われて大変な部署だと思っただろう。陽芽子も啓五の立場で今回のように業務の実態を知ったら、同じような感想を抱いてしまう気がする。
でもその認識は、少しだけ間違っている。お客様相談室という部署は、毎時毎分のように顧客からのクレーム処理をしているわけではない。
「あのね、お客様相談室に来る電話って、本来は普通の問い合わせの方が多いんだよ?」
「普通の問い合わせ?」
「うん。例えばパッケージの裏に書いてないアレルギーのこととか。原料の産地はどこの都道府県なの? とか」
実はお客様相談室にかかってくる電話は、クレームよりも商品に関連する問い合わせの方が件数としてははるかに多い。