スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 陽芽子は商品開発や営業や広報に携わっているわけではないが、お客様専用の窓口で会社と顧客を繋ぐ大事な役割を担っている。

 商品に対する感想やお礼を直接聞けるという経験は他の職種ではなかなかできないことだから、個人的にはこれほどモチベーションを高く保てる業務もないと感じている。

「ね? そう思うとお客様相談室も意外と悪くない仕事でしょ?」
「……強いんだな」

 陽芽子の自慢気な言葉を聞いた啓五が、感心したようにポツリと呟く。

「陽芽子が仕事してるとこ、格好良かった」

 そんな誉め言葉に反応して顔を上げると、すぐ近くに啓五の顔が迫っていた。いつの間にこんなに近づいたのだろうと考えているうちに更に距離を縮められ、伸びてきた啓五の指先に頬を撫でられた。びっくりするほど自然な動作で、さらりと。

「ますます陽芽子が欲しい、って思った」
「え……」

 急にストレートに口説かれ、直前まで上機嫌に語っていた仕事の話がどこかへ身をひそめてしまう。副社長である啓五に、ただの社員である陽芽子が自慢話をしたから機嫌を損ねてしまったのかとも思ったが、そうではないらしい。

 指先がゆるく頬を撫でる動きに、身体がぴくんと反応してしまう。

「陽芽子が傍にいて励ましてくれたら、毎日頑張れるだろうなって。でも陽芽子にも辛いことがあるだろうから、その時はいちばんに俺を頼って欲しいって思った」

 熱心に語る啓五の言葉は、紛れもない彼の本心なのだろう。心の底から陽芽子の存在を欲していて、同時に自分を頼って欲しいと言ってくれる。

 だから陽芽子が啓五を利用したことそのものは、本当に気にしていないみたいだ。それどころか、自分の地位や存在を頼って利用してくれたことが嬉しいような顔までされてしまう。
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