スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 どちらかと言えば、その時に引き合いに出した相手の名前の方が、啓五には効きすぎてしまったらしい。春岡に対する彼の嫉妬心は、陽芽子が想像していた以上だった。いつも余裕があるように見える啓五だが、春岡が絡むとその余裕が少し崩れているような気がする。

 改めて会って話をするまで、啓五から『騙すなんて最低だ』と言われてしまうことも想像していた。もしかしたらプライベートで会うのは今日が最後になるかもしれないとさえ思っていた。

 でも啓五は、陽芽子を許してくれるらしい。
 まだ好きでいてくれるらしい。
 陽芽子への想いは言動の端々から感じ取れる。

 それなら陽芽子は、啓五の告白にしっかりと返事をしなければいけない。自分の想いもちゃんと伝えなければいけない。

「あの……保留にしてた返事……」

 機会を逃すとまた怖気づいてしまう気がしたので、緊張しながらも言葉を紡ぐ。顔を上げると、啓五の表情にも緊張感が走ったのがわかった。

 水面に反射するようにゆらゆらと揺れる青白い光の中で、じっと見つめ合う。

「言っておくけど、フラれても諦めないからな」

 陽芽子が口を開くよりも少しだけ早く、啓五が釘を刺してきた。以前も聞いた気がする、諦めの悪さをちらつかせて。

「……ふらないよ」

 だから陽芽子もその釘をさっと払いのける。勘違いしたまま放置して、またその熱に飲まれてはいけないから。

 陽芽子の言葉は、啓五にとっては意外なものだったらしい。そのまま硬直してしまった啓五にちゃんと聞こえるように、一歩だけ傍へ近付く。触れれば届く距離で、黒く濡れた瞳を見上げて。

「付き合う……啓五くんと」
「え……本当に?」
「……うん」

 と頷いてから、それは可愛げがない答え方だと気が付く。
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