スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
啓五は陽芽子に対して、ちゃんと自分の気持ちを伝えてくれた。その返事をこんなに長く保留にしておいて、それなのに首を動かして頷くだけで済ませるのは不誠実だと思う。
だからもう一度、自分の言葉でちゃんと伝える。それが今の陽芽子の、大事な気持ちだから。
「私も……啓五くんのことが、好き、だから」
なんだか妙に気恥ずかしくて、つい言葉が途切れてしまう。これが仕事だったら合格点に届かないぐらい歯切れの悪い返答だ。
でも啓五にはしっかりと伝わったらしい。照れて俯く陽芽子の身体を両腕で包むと、そのままぎゅっと抱きしめられた。
「よかった」
啓五がほっと安心したように息を吐くので、ずいぶん不安にさせて待たせてしまったのだと気付く。陽芽子から啓五を振るつもりはなかったが、彼は本気で断られるかもしれないと思っていたようだ。
けれど違った。
よかった、と言うのは、そういう意味ではなかったらしく。
「部屋、取っておいて」
「!?」
陽芽子の手を掬い取った啓五が、指先にキスを落としながらじっと視線を合わせてきた。まるでお姫様に誓いを立てる王子様のような仕草だが、啓五の頭の中は王子様と表現するほど爽やかではない。
その目にはまた灼熱の温度が宿っている。離さない、と言っている。
今度こそ本当に、瞳の鋭さと温度に囚われてしまうほどの。
「……お手柔らかに、お願いします」
最初にちゃんと言い添えておかないと、啓五は陽芽子の制止など聞いてくれそうにないから、事前にそうお願いしておくのに。
陽芽子の身体を抱き寄せ、長い指で顎を掬い上げて唇を重ねてくる啓五に、要望を聞いてくれる気配は感じられなかった。