スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
でもそれは叶わない願いだから。
これは少しの間だけの夢だから。
あんなに強かった結婚願望を押し退けてでも、今はただ啓五と一緒にいたい。恋人として、傍にいることを選択したい。
だからもし将来を誓い合う相手が現れたら、そのときはちゃんと教えて欲しい。お別れには心の準備が必要だから、出来れば早めに。
「……結婚のこと真面目に考えなきゃいけないって言うから」
「え……?」
「俺との結婚を、本気で考えてくれてるんだと思ってた」
違ったのか、とぼそりと呟いた啓五に、一瞬言葉を失う。泣いてしまわないようにと逸らしていた視線を上げると、啓五と再び目が合った。
顔を覗き込んできた啓五が、ふ、と笑う。少しだけ困ったように。
「でも、そっか。好きだとは言ったけど、その先は言ってなかったもんな」
苦笑いとともに呟いた啓五の言葉に、陽芽子は静かに息を飲んだ。
先ほどアクアリウムでされたのと同じ。陽芽子の手を掬い取り、小さなキスを落とされる。けれど今度は指先じゃなく、左手の薬指の付け根に。
「結婚しよう、陽芽子」
「……え?」
「俺は陽芽子と結婚する。他の相手なんていらないし、探すつもりもない」
すっぱりと言い切る潔さに、思わず呆気に取られてしまう。今、なんて言ったの? と聞き返す前に。
「聞こえなかった? 陽芽子は俺と結婚すんの。俺は……陽芽子だけが欲しい」
さらに真剣な声と真剣な瞳で愛を重ねられ、ついに言葉が出てこなくなってしまう。
それは紛れもなく、陽芽子がずっと欲しかった台詞だ。一生をかけて愛してくれる相手からの、自分だけに向けてくれる特別な感情の証。
陽芽子は何でも出来るから、強いから大丈夫だと言って離れていかない。本当は全く完璧じゃない、強がってばかりで可愛げのない自分を好きになって、大事にしてくれるという確かな誓い。