スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
強制執行のお時間
遠くで啓五の声が聞こえた気がして、夢の世界から覚醒する。ここどこ……? とぼんやり考えながらモゾモゾと身体を動かすと、シーツも枕もベッドカバーも自分のものではないことに気が付く。
ぱちりと目を開くとほぼ同時に、啓五がベッドの端に腰を下ろしてきた。
「おはよ、陽芽子」
「…………おはよう、ございます」
「なんで敬語? 寝ぼけてんの?」
髪を撫でながら笑われ、昨日の行為の最初から最後までを怒涛の勢いで思い出す。恥ずかしさのあまりベッドの中へUターンする陽芽子と違い、啓五は朝から楽しそうだった。
どうやら彼は誰かと電話をしていたらしい。先ほど遠くで聞こえた声を思い出して、土曜日なのに仕事なのかな、と考えていると、突然ベッドカバーを剥ぎ取られた。情けも容赦もなく、一気に。
唯一の防御装備を奪われて悲鳴を上げそうになると、啓五はソファに置いてあったバスローブを身体に掛けてくれた。裸の姿や化粧をしていない素顔を見られる恥ずかしさは考慮してくれたらしい。
「もう少しでルームサービス来るから。顔洗ったら一緒に食べよう」
「……うん」
啓五に促され、そっと頷く。
助言の通り身支度をしようとベッドから降りたところで、伸びてきた啓五の腕に突然ぎゅっと抱きしめられた。
「陽芽子、俺と結婚してくれる?」
「!?」
唐突に昨晩の続きを囁かれ、はっと顔を上げる。至近距離で目が合うと、啓五がにこりと笑顔を浮かべた。楽しそうに、照れる陽芽子をからかうように。
「え……、な、なんで……?」
「いや、だって『してる』時の言葉は信じてくれないんだろ?」
「!!」
さらりと確認された言葉に、また驚愕してしまう。
昨夜、陽芽子は啓五の求愛にちゃんと頷いた。何度も結婚しようと言われ、とろけるほどに甘い言葉を囁かれ、優しいキスと丁寧な指使いに翻弄され、深い快感を与えられた。
その求婚を受け入れ、陽芽子も啓五の想いにしっかりと応えたのに。