スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
啓五は改めて確約を欲しがる。陽芽子の口から望む言葉を言わせたくて、腰に回した腕に力を込めてくる。
「せっかく恋人になったんだ」
陽芽子がまごついていると、また嬉しそうに笑われる。とりあえずこの場で言わせることは諦めたのかと思ったが、啓五の態度は全く軟化していなかった。
「早く婚約者にならないと」
「なんで!?」
ステップアップが超特急すぎて、全然ついていける気がしない。
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罠だ。しかも回避不可能な。
気付かずにのこのことついてきた陽芽子も間抜けだと思うが、こんな大胆な罠を仕掛けて強制執行に踏み切る啓五も啓五だ。
困るに決まっている。陽芽子ではなく、目の前に座る男性が。
「ってわけで祖父さん。俺、結婚するから」
IMPERIALのVIPルームにある豪奢な椅子に腰を落ち着け、背もたれに肘を掛けて堂々と宣言する。相手は啓五の態度を咎めなかったが、
「いやいや……お前は本当に……」
と呆れた声を出す様子には、陽芽子も同情してしまう。
「昔から突拍子もない行動ばかりなのは、親に似たのか?」
そう言って酸味の強い梅干を食べたような顔をしているのは他でもない、ルーナ・グループの名誉会長にして啓五の祖父である一ノ宮将三だった。
今朝、陽芽子が目を覚ます前に電話をしていた相手は彼だったのだろう。啓五の突然の呼び出しに応じてくれたのは良いが、目の前に婚姻届を用意されて、証人欄を記入して欲しいと言われればそれは驚くに決まっている。
もちろん陽芽子も驚いた。週末の予定はないと申告すると、すぐにホテルから連れ出された。そして百貨店で服から靴まで全身の装いを一新され、役所の夜間窓口から婚姻届の用紙をもらってきた足でIMPERIALに向かい、現在に至る。目まぐるしいにも程がある。