スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「陽芽子さん」
のそりと立ち上がった将三が、陽芽子を見下ろしてニヤリと笑う。
「啓五に愛想が尽きたら、私に言いに来なさい。啓五よりいい男を紹介してやろう」
「祖父さん!」
啓五の慌てた様子を見て高笑いした将三は、そのままご機嫌な足取りでVIPルームの奥へ消えていった。
前回来たときは気付かなかったが、このフロアは螺旋階段だけではなく奥に設置してあるエレベーターでも一階との行き来が可能らしい。
「お祖父様、面白い人だね」
「まあ、一ノ宮の中では話が通じる方だと思うけどな……」
啓五はぐったりとした様子で眉間を押さえているが、将三はまごうことなきルーナ・グループの頂点で一ノ宮家の当主に座す御身だ。彼が右だと言えば誰も左は向かないし、白だと言えば黒も赤も青も白に変わるだろう。
だから啓五は、誰にも文句を言わせない相手を証人として選んだのだ。自分の目的を確実に達成し、自分が欲しいものを手中に収めるために。
「陽芽子」
啓五の決定を覆して文句を言う人がいるとしたら、あとはもう陽芽子本人ぐらいだろう。だから啓五は、最後の砦を切り崩そうと動き出す。もう陥落していると知っている城砦が、自分の手中にちゃんと落ちていることを再確認するために。
「そんな風に思ってくれてたんだ」
「え……あ……」
「俺も陽芽子に、ずっと傍にいて欲しい」
ソファの背もたれに手をついて逃げ道を塞ぎ、陽芽子の動きを封じ込める。そして指で顎先を掬われ、目線を合わせられる。
「俺と、結婚してくれますか」
問いかけてはくれるが、きっと有無を言わせるつもりなんてないのだろう。
だから陽芽子も頷く。どきどきとうるさい心臓も、相反するように実は安心している気持ちも、先が見えない不確定な未来も、啓五の傍にいたいと言う素直な気持ちも、ひっくるめて。
「……よろしくお願いします」
けれどぽつりと呟いた返答は、近付いた啓五の唇にあっさりと奪われた。