スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 紛失すると思われてる?
 それとも汚すと思われてる?

 なんて、ぐぐぐ、と啓五の顔を見上げると、ため息を吐かれた。けれどそれは陽芽子へ向けたものではなく、きっと啓五が自分自身へ向けたもの。

「そうじゃない。俺が自信ないんだ」
「え……? ……自信?」
「陽芽子、自分が年上だってこと気にしてるだろ?」

 陽芽子の内心を見破る唐突な質問に、どきりとしつつも顎を引く。

 大人げないと思われるかもしれない。信用していないのかと言われるかもしれない。それは頭ではわかっているけれど、やっぱり気になってしまう。

 啓五は陽芽子よりも三歳も年下だ。男性という生き物には、より確実に子孫を残せる相手を選ぶという本能が備わっている。

 だから啓五が自分の子供を確実に産める若い相手を選んだとしても、それは仕方がないと諦めてしまう気がする。もちろん悲しいし悔しいけれど、最初から勝てない勝負だったと最終的には諦めてしまうかもしれない。

「けどそれと同じぐらい……いや、それ以上に俺の方が、年下なことを気にしてる」

 ずん、と沈んでしまいそうになった陽芽子の頭上に、啓五の意外な告白が落ちてきた。数秒遅れて顔を上げると、再び苦く笑われる。

 それは陽芽子も初めて耳にする、啓五の不安な感情だった。

「俺より経験豊富で包容力のある男が陽芽子を本気で口説いたら、俺には勝ち目なんてないからな」

 年の差はどんなに頑張ったところで永遠に埋まらない。若い女の子が啓五の傍にやってきて陽芽子を『おばさん』だと罵っても言い返せないように、余裕のある男性が陽芽子の傍にやってきて啓五を『子供だ』と揶揄しても事実なので言い返せないのだろう。その言い分はわかるけれど。

「……え、本気でそんなことあると思ってるの?」
「当たり前だろ」

 そもそもそんな状況になる可能性なんてないと思う。と考えているうちに、婚姻届は陽芽子の手が届かない位置に遠ざけられてしまった。
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