スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「もし浮気なんかしたら、完全に奪われる前に法的に俺のものにするから。そのつもりで」
絶対に奪わせない。手に入れたのだから離さない。その契約書だけは間違っても破り捨てさせない。離れるつもりなら強制的に縛り付ける。と、啓五は年下のわがまま特権を存分に行使してくる。存在もしない相手に敵意を剥き出しにして。
「もうさっさと出しちゃえばいいだろ」
会話を聞いていた環が呆れ声を出すが、陽芽子は『週明けから急に名字が変わるのは困る』と思ってしまう。しかしあまりに性急すぎると不都合が生じるのは啓五も同じらしい。
「出来るならそうしたいけど、親父への根回しを一切してないからな。少し準備期間がいる」
「まあ、そりゃな……いくら何でも、勢いで決めすぎだろ」
「仕方ないじゃん。最悪、親父の方は祖父さんの名前を出せば押し通せる。でも陽芽子に他の男と結婚されたら、取り返しがつかないからな」
結婚相談所なんて、相手が見つかったらその先はあっという間だろ? と啓五はつまらなさそうに口を尖らせる。
「俺が知らないうちに結婚が決まって、次の火曜日に知らない男がここに座ってたらと思うと気が気じゃない。本当はこれでも遅すぎるぐらいだと思ってるよ」
「啓五くん、さっきから何の心配してるの……?」
他の男性が口説いてきたら、とか、浮気したら、とか、結婚相談所に登録したら即相手が見つかるような言い方とか。
そこまで異性にモテるのなら、陽芽子はとうの昔に結婚していると思う。誰にも相手にされず、恋人にもあっさり捨てられ、あまつさえ職場では『毒でも死なない』『魔女』などと揶揄されるのだ。啓五が心配するような出来事は、どう考えても起こるはずがないのに。
「だから言ったじゃん。啓は陽芽ちゃんにどんどんハマっていくって」
困惑していると環にからかわれた。そう言えば以前にもそんなことを言われていたっけ。
「そ。溺れてんの」