スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
7人の部下と王子様の攻防
啓五に『俺と陽芽子が結婚するために説得が必要な人があと七人いる』と言われたときは、さすが一ノ宮の御曹司だな、と思ってしまった。しかしその七人は啓五の知り合いではなく、他でもない陽芽子の可愛い部下達だった。
「いい? 全員ちゃんと副社長の指示に従うこと。食べ物は残さない、お店の中で騒がない、飲みすぎて暴れない。お手洗いの場所は、全員自分で確認しておいてね」
「……陽芽子は保育士の資格も持ってるのか?」
部下たちにこんこんと注意事項を説き伏せる姿を見た啓五が、笑いを堪えて肩を揺らす。しかし笑い事じゃない。ここが会社の外だとしても、この集団をまとめて管理するのは陽芽子の役目だ。
それに今日はいつもの飲み会と違って、みんなのテンションも高い。
その理由もわかる。ここはルーナ・グループの経営店である高級鉄板焼きの店で、普通なら入店はおろか予約を取ることすら難しい人気店だ。
「最高級和牛!」
「伊勢エビ!」
「お願いだから、静かに食べて!?」
「いいよ、陽芽子。どうせ貸し切りだし」
店内はカウンター席のみで、目の前の厚い鉄板の上では高級ステーキ肉から新鮮な魚介類、採れたての大きな野菜が次々と焼かれている。クラルス・ルーナ社のお客様相談室メンバーの宴会でこれほどに贅沢なお店を利用するのは後にも先にもこれきりだろう。
「申し訳ありません、私までご一緒させて頂いて」
「いえ、迷惑をお掛けしたのはこちらですから」
啓五と春岡が、陽芽子を挟んでそんな会話をする。
そう、今日はただの飲み会ではない。これは啓五の秘書である鳴海のせいで、肉体的にも精神的にも疲労した陽芽子の部下たちを労うための、いわば『お詫びのお食事会』だ。
だから啓五は、わざわざ予約の取れない人気店を貸し切りにして、思う存分食べ飲みができるようセッティングしてくれたのだ。しかも飲食費は啓五がすべて自腹で支払うという。