スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
そんなことまでしなくていいと焦る陽芽子と春岡を他所に、部下たちの食いつきは凄まじかった。
値段のついていない品書きからどんどんと好きなものを注文して、片っ端から飲み食いする。そんな部下たちを横目に、啓五がそっと口を開いた。
「以前、王子様が白雪姫を迎えに来たら困る、と言ってましたよね」
過去の話を持ち出されたことに気付いた春岡が、ビールジョッキから口を離して顔を上げた。
「申し訳ありません。でもやっぱり、陽芽子は俺がもらうことにしました」
「えっ……、…………おめでとうございます」
春岡は一瞬、啓五の言葉の意味がわからなかったらしい。油断しているところに軽い口調で報告されたので少し間が開いてしまったが、春岡はすぐに祝いの言葉を述べてくれた。
だがその報告の言葉は、春岡の角合わせに座っていた御形にもしっかり聞こえていたようだ。
「は!? 室長、結婚するんですか!?」
「えっ……副社長と!?」
さらにその隣にいた夏田が反応すると、そこから火が付いたように全員が騒ぎ出してしまう。
「そうだ。陽芽子は名字が一ノ宮になる」
啓五の説明で、騒ぎはより一層大きくなる。事前にあれほど騒がないように、暴れないようにと注意していたにも関わらず、やんやんとはしゃぐ部下たちに陽芽子はひとり焦った。
しかも最初は『おめでとうございます』『結婚式するんですか?』と嬉しそうな声が聞こえていたのに、気が付けば
「副社長、最低!」
「私たちから室長を奪うなんて!!」
「室長を寿退社させるつもりなら、私も辞めます!」
「俺も他の人の下で、あの業務をするのはちょっと……」
「私も異動願を……」
と、話が変な方向へ転がっている。
その展開に慌てたのは春岡だった。
「待て、なんでそうなるんだ!?」
椅子をガタガタと鳴らして立ち上がった上司は、部下たちの行動を阻止しようと必死な様子だ。
陽芽子を取り巻く人間関係を再認識した啓五が、困ったように笑う。部下たちが陽芽子を慕ってくれていることには、啓五もちゃんと気が付いていたらしい。