スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
きっぱりと言い切って開き直られると、陽芽子も黙るしかなくなる。
甘い空気の気恥ずかしさに負けた陽芽子は、照れを誤魔化すようにバスルームへと逃げ込んだ。そのままシャワーを借り、ドライヤーで髪を乾かし、歯を磨きながら、平静を取り戻そうとこっそり奮闘する。
自分の意思で啓五の家にやって来たのは今日が初めてだ。当然、陽芽子が生活するための日用品や衛生用品はまだ揃っておらず、今夜もとりあえず一泊するだけの最低限の準備しかしていない。
そのお泊りセットの中にあったルームウェアを着てリビングへ戻ると、ずっと浮かれていた啓五がとうとう活動停止状態になった。
「え……陽芽子、毎日その格好で寝てんの?」
「そ、そうだけど……?」
啓五の傍へ近づくと、全身をまじまじと眺められる。
とはいえ陽芽子のルームウェアは、その辺の衣料店に売っている普通のパジャマだ。デザインもありがちだし、色だって白と桃色で特別に奇抜でもない。
「へん? 普通のパジャマじゃない?」
「いや、まぁ……そうだけど。急に可愛いのか……うん、ずるいな」
ぶつぶつ言いながら啓五もバスルームへ消えて行く。一体なんだろうと思っていると、ガシャン、ゴトンと何かにぶつかったか、何かを落としたような音が聞こえてきた。
(……大丈夫? ……酔ってる?)
やっぱり酔ってるのかもしれない。普段あんなに強いお酒を飲んでいるし、お湯を使う音もかすかに聞こえているので、さほど心配する必要はないと思うけれど。
グループメッセージでみんなの帰宅確認をしつつスキンケアをしていると、シャワーを済ませた啓五がリビングルームへ戻っていた。
近付いてきた姿を見上げて、ハッと驚く。そして先ほどの奇行の理由に、妙に納得してしまう。
シャワー上がりの啓五はTシャツとルームパンツというラフな格好だった。それは普段の高級そうなスーツ姿や、ホテルで見るバスローブ姿ではない。プライベート空間へ入ることを許された者のみが目にできる、完全に無防備な普段の姿だ。