スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「ん? どうした?」
人間らしい優しさと猛獣のような鋭さを兼ね備えた力強い眼に微笑まれ、また心臓を射抜かれた心地を味わう。
「ううん……啓五くんの眼、好きだな、って」
その濡れた黒の中に、今は陽芽子の姿だけが映っている。
啓五の視界にいるのは自分だけ。その事実に気が付くと、独占欲ってこういうことなのかな、と思ってしまう。
「もう一回言って」
ふと熱っぽい声で顔を覗き込まれたので、何か言い方を間違えてしまったのか、と慌ててしまう。けれどその目を見ても、首を傾げても、結局正解はわからない。
だから難しいことを考えるのは止めにして、素直な感情をありのままに口にする。
「けいごくん、すき」
「……それは反則」
啓五がぼそりと呟いた言葉に、再び笑みを零す。
本当は鳴海が啓五の傍に居続けることを、面白くないと思っている。真意はどうあれ、啓五の花嫁の座を欲していた人に、近くにいて欲しくはない。けれど陽芽子は啓五の仕事を助けることは出来ないし、啓五も鳴海の能力は買っている。
だから仕方がない。
その代わり、プライベートの時間はぜんぶ陽芽子に譲ってもらうから。
「啓五くんは、私のものになってくれる?」
そっと訊ねると、当然のことを聞かなくてもいい、とまた頭を撫でられた。
「陽芽子は?」
その心地よさに身を委ねていると、同じ質問を返された。わざわざ聞くまでもない、今さらすぎる当たり前の確認を陽芽子の耳元で囁く。
「俺のスノーホワイトは、恋に落ちてくれた?」
返事もしていないうちに、またその唇を奪われる。だから明確な回答は出来ていないが、啓五は気付いているだろう。
白木陽芽子が『落ちた』恋はそんなに可愛いものではない。他でもない啓五が『堕とした』執着の恋は、チョコレートや蜂蜜のようにどろどろに甘ったるい、沼のような恋なのだから。