スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
だから四度目のキスは、もう少し長めに。触れ合いのついでに閉じられた唇を舐めて、ちょっとだけ噛む。
このぐらい大胆に口付けているのだから、そろそろ本当に起きてくれてもいいと思う。なのにやっぱり、閉じられた瞳は開いてくれない。
これでは啓五がいくらキスをしても、陽芽子は永遠に起きないみたいだ。白雪姫は王子様のキスで目を覚ますはずなのに、陽芽子にとっての運命の相手が自分じゃない気がして。それは悔しいから、何としてでも自分のキスで起きて欲しいのに。
五度目のキス―――よりも一瞬早く、陽芽子のスマートフォンが震えて目覚ましのアラーム音が響いた。
「ん……?」
音が聞こえて数秒経過すると、啓五の腕の中にいた身体がモゾモゾと動き出した。完全覚醒するまでには時間が掛かるらしく、枕の横に置いてあったスマートフォンのサイドボタンでアラームを停止させると、眠気と戦うように少しずつ活動を開始する。
「おはよ」
「……おはよぉ」
掛け布団をめくって朝の挨拶をすると、眠そうな声が返ってきた。
一応、起きたらしい。啓五のキスではなく、スマートフォンのアラームで。
その事実に気が付くと、無性に悔しくなった。だからまだ目が完全に開いていない陽芽子の顎を持ち上げ、そっと唇を重ねる。嫌がられたら困るので、また触れるだけの小さなキスに逆戻りして。
「……ん、……え、……なに?」
「別に、何でもない。ただの朝の挨拶」
突然のキスに混乱している陽芽子に、つい不機嫌な返事をしてしまう。
陽芽子は自分が起きるまでの間に何があったのか、知らないだろう。自分のキスで目覚めさせたくて奮闘していた啓五の行動も、それが達成できずにいつものアラームであっさり起床してしまった陽芽子に小さな不満を抱いていることも。