スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
何故か楽しそうに笑う怜四の意図は、さっぱりわからない。
陽芽子はほんの十分ほど前、会社のエントランスホールで社長の怜四に誘拐されて、社長室に連れて来られた。
その少し前、仕事が終わったので啓五にメッセージを送ると『一緒に帰ろう』と返信があった。少し仕事が残っていると言う啓五とは、エントランスで待ち合わせることになっていた。
対する怜四は外出先から帰社してきたところだったらしく、一階のエレベーター前で偶然鉢合わせた。
『君、啓五のお嫁ちゃんだよね? 陽芽子ちゃんだっけ?』と話しかけられので顔を上げると、興味深そうに首を傾げた怜四がものすごく近い場所に立っていた。
突然の接近に驚いているうちに、ほぼ拉致に近い状態で社長室へ連行された。
社長室に着くと今度は陽芽子のスマートフォンを貸して欲しいと言われた。疑問に思いながら素直に差し出すと『オ前ノ嫁ハ預カッタ。返シテ欲シケレバ社長室ヘコイ』と謎の裏声を使って啓五を呼び出していた。
で、今に至る。状況を整理しても理解は全く追いつかない。
だが怜四はやけにご機嫌だった。陽芽子に出されたものと同じコーヒーを飲みながら、こちらの様子を楽しそうに観察してくる。
「もう啓五と一緒に住んでるんだっけ?」
「あ、はい……。二週間前から、啓五さんのマンションに住んでいます」
「いいねぇ、今が一番楽しい時期だろ。毎晩ヤリ放題?」
「!? ……!?」
「あ、ヤベ。今のセクハラだな。悪い悪い、忘れてくれ」
ひどい冗談に目を見開いて硬直していると、自分の立場を思い出したようにからからと笑われた。
陽芽子が気を遣わなくても勝手に楽しそうなのはいいが、啓五よりも更に上の存在で、しかもいずれ親戚になる人だと思うとどう反応していいのかわからない。