スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「おはようございます、室長」
「おはようございます~」
「おはよう。二人とも早いね」
IDカードでロックを解除してコールセンター内へ足を踏み入れると、部下の蕪木と鈴本が既に出社して雑談を交わしていた。同時に声を掛けられたのでまとめて返事をすると、二人がブースの仕切り越しに顔を見合わせた。
「室長、機嫌いいですね?」
「何かいい事あったんですかぁ?」
自分では特に感情を表現したつもりはない。けれど部下たちには目聡く悟られてしまったようで、興味津々な様子で話しかけられた。
「別に何もないわよ」
笑顔を浮かべて適当に誤魔化す。二人は不思議そうに首を傾げていたが、陽芽子が何も言わずにいるとそのうちまた雑談に戻っていった。
いつもの空気に軌道修正できたことを確認すると、ほっと胸を撫で下ろす。自分のデスクに腰を落ち着けながら、あまり感情を表に出さないようにしなければ、と再度気を引き締める。
精神統一を図ったあとは、朝の作業を開始する。やることは先週のチェックや今日の予定の確認などルーティーン化されたものばかり。けれど今日は年度の初めなので、いつもより少しだけやることが多く、おまけに新年度の朝礼にも出席しなければいけない。
お客様からの要望を聞き受ける『お客様相談室』、通信販売の操作案内やポイント制度の補助を担う『システムサポート係』、季節の品や冠婚葬祭の品など贈答物への問い合わせを担当する『ギフトセンター』の三部門を合わせた『コールセンター』は、陽芽子の部下を含めて正社員より派遣社員が多い。