スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
社長相手に失礼だと思ってすぐに表情を変えたつもりだったが、怜四には悟られていたようだ。ちょっと困ったように、そして自分を含む『経営者』とやらに呆れたように、苦笑いされてしまう。
「ほら、よくあるだろ。大事な取引の日はラッキーカラーのアイテムを身につけるとか。野球のドラフト会議ではどっちの手でクジ引くとか」
「あ……確かに。よく聞きますね」
「それと同じ理屈で、『三白眼』や『四白眼』ってのは商売運に影響するとか、人相学では凶事のサインだとか言われて、敬遠されるモンなんだよ」
「……え? そ、そうなんですか?」
怜四の話が急に啓五の身体的特徴に繋がったので、陽芽子も思わず面食らってしまう。
しかし続けて語られた言葉は、陽芽子も絶句してしまうような内容だった。
「啓五はガキの頃から、一ノ宮の連中に『経営者には相応しくない』と言われて育ってきた。中には『失敗作だ』『一ノ宮の出来損ない』だって陰口を叩く奴もいたな」
「えぇっ……? 三白眼ってだけで?」
「そう、それだけで」
姿勢を崩して盛大なため息をつく様子を見れば、怜四自身にはその感覚が薄いことがわかる。むしろ啓五の境遇を憂いているような気配さえ感じられた。
しかし啓五の眼にそんな事情があることを、陽芽子は全く知らなかった。啓五から説明されたことはないし、そんな仄暗い幼少期があると感じたこともなかった。
もちろん陽芽子自身が、啓五の瞳に凶事の兆しを感じたことは一度もない。