スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
(意味が、わからない……)
やはり大企業を動かす経営陣たちの考え方は、一般からかけ離れていると言える。陽芽子の感覚とは全くちがう尺度で万事を判断していることが窺い知れる。
それが上に立つ者とその他大勢の差だと言われればぐうの音も出ないが、少なくとも幼い少年にかけていい言葉ではないと強く思った。
「でもアイツ、スゲー負けず嫌いだからな。ガキの頃から勉強もスポーツも習い事も絶対に手を抜かないし、ちゃんと結果を出す奴だったよ」
怜四の言葉には妙に納得してしまう。
それは陽芽子も感じている。啓五は仕事に対して、人の数倍の努力をしている。
自分の管理範囲に関わる情報は過去のものも含めて全てに目を通し、時にはその範囲を越えてまで足りないものを埋めようと邁進する。専門分野以外の勉学も怠らない。他人から見聞きするよりも自分の五感で確かめることを選ぶ。人付き合いも決して無下にはしない。
啓五はそれらの努力を一切惜しまないし、一切妥協しない。一緒にいればいるほど、その力強さを実感する。
それでいて陽芽子のことは何よりも優先してくれる。仕事に傾ける情熱以上に、陽芽子に『大事だ』『愛している』と言ってくれる。まるで陽芽子に自分の想いを疑われたくないとでも言うように。すべてを捧げてくれるように。
「だから連中に屈したことは一回もなかったぞ」
「うん……。はい……そういうところ、私も……尊敬、してます」
「……陽芽ちゃん?」
怜四の不思議そうな声を聞いて、ハッと顔を上げる。その瞬間、瞳からぼろぼろっと涙が零れてきたことに、自分でも驚いた。
視線を合わせた怜四の目が驚愕に見開かれたので、陽芽子は慌てて俯き、手の甲で自分の目元をごしごしと擦った。