スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
そして時間の経過とともに、猛烈な羞恥心を覚え始める。自分の感情を心のまま啓五に伝えてしまったことを密かに後悔していると、伸びてきた怜四の大きな手にぽんぽんと頭を撫でられた。
「啓五のこと、よろしく頼むな。コイツこう見えて結構甘えただから、ウザ~~って思ったらいつでも俺を頼ってきていいから」
怜四の言葉には、笑顔を返すことで同意する。
先ほど話を聞いたときは、一ノ宮一族の中に啓五の味方はいないのではないかと思えた。しかし怜四は啓五のよき理解者として公私ともに支え合っている印象を受ける。それに以前会った啓五の祖父である将三も、陽芽子に気を遣ってくれたし、啓五の背中を押してくれた。
「なんで皆、陽芽子の味方なんだ……」
ぶつぶつ文句を言っている啓五とともに、社長室を後にする。
陽芽子が泣いていた理由を問い詰められた怜四は『お前の眼の話をした』と素直に白状した。たったそれだけで、啓五は陽芽子に何があったのかも、どう思ったのかも察したらしい。
なんとなく寄り添うように近付いたふたりは、どちらからともなく手を結び合った。
帰宅のためのエレベーターに乗り込んだとき、時刻はもう21時を過ぎていた。
元々陽芽子も残業をしてから啓五と待ち合わせていたのに、そこから更に社長室に誘拐されたのだ。こんな遅い時間になったのならば、他に残業している人はほとんどいないだろう。
だから陽芽子と啓五が手を繋いでいる様子など、誰も見ていない。もちろんエレベーターの監視カメラにはふたりの姿が映っているはずなので、出来れば振りほどいて適度に距離を取った方がいいことはわかっている。業務時間外とは言え、ここは職場だ。
けれど今は、この手を離したくなかった。指先から伝わる温度と同じものが、啓五にもちゃんと伝わればいいと思いながら、その手をさらにぎゅっと握り返す。